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 もう思い出せない。

 私は確かにここで生きている。私として生きている。だけどきっと、本当はここじゃなかったはずだ、という実感だけが、確かに残っている。

 誰かの記憶。私の知らないはずの、あの子の記憶が、この体から染み出すように、少しずつ私を侵食していく。この体に、自分の魂が埋もれていくのがわかる。

 いつか完全に、私はあの子の記憶のすべてを手に入れるだろう。

 それが他人の人生を乗っ取ってしまうのだということに、私はようやく気がついた。