それから数日後、ノートが返却された。その直後の休み時間に、誰かがずんずん近づいてくると思ったら、森宮さんが真横に立っていた。

「ちょっと!」

 森宮さんにノートを突きつけられる。

「これ、なに?」

 私は目を丸くする。

 ――大神にノートを貸す代わりに、勉強を教えてやるように。

 安田のコメントだった。赤字で一番最後のページに小さく書かれている。堅物で強面のくせ、地味に芸が細かいことで有名なのだ。

「あ、ごめん」

 私は苦笑いして、自分のノートを見せた。最後のページには、こちらも安田のコメントが入っている。

 ――正直でよろしい。だが減点。

 その上に、私が入れたコメントがこうある。

 ――森宮さんのノートを写しました。ごめんなさい。次回からちゃんと取ります。

「……馬鹿なの?」

 森宮さんが、呆れ顔になった。

「いや、だって森宮さんのノート綺麗過ぎて、写したら絶対ばれるから最初から言っといた方がいいかなって」

「代わりに勉強教えろって言われたんだけど?」

「教えてくれるなら嬉しいけど……」

 私が恐る恐る笑ってみると、森宮さんは盛大に鼻を鳴らした。

「冗談でしょ。お断りよ!」

 でもそのとき、普段は氷柱のようにツンツンととげとげしい彼女のオーラが、少し和らいだことを、私ははっきりと感じたのだ。