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和佳が事故当時に所持していたものは、だいたい病室に置かれている。
スマホはちょうどトラックのタイヤに轢かれてしまったらしく、原型をほぼ保っていなかったが、それ以外は概ね無事だった。
当時浴衣を着ていたので、それに合わせて持っていた小さな巾着袋には財布とsuica、家のものとおぼしき鍵……あとは目薬やリップクリーム、シンプルな水玉模様のハンドタオル。
和佳らしいな、と思ったのはハンドタオルの柄くらいで、後は実にシンプルだった。ある意味、それが和佳らしいといえば和佳らしい。
院内には自動販売機や売店があるから、お金があれば買い物はできたけど、和佳の財布を勝手に使う気になれなくて、私は結局財布にもsuicaにも一度も手をつけていなかった。中を見てもいない。
けれど、退院が近づいてくると、否応なく考えなければならなくなる……入院費用、帰るための交通費、それにこの先、学校生活を送るためにだって、まったくお金を使わないわけにはいかない。
退院を翌日に控えたその夜、罪悪感を押し殺して、私は和佳の財布を開いた。
外見だけは何度も見たことがある、ベージュ単色の長財布の中には万札が三枚、千円札が五枚。
私の感覚だと、ちょっとした大金だ。出かけるから下ろしてきたのだろうか。小銭も結構入っている。一円玉が妙に多い、そういえば和佳と一緒に買い物をすると、いつも一円玉で端数を合わせていたっけ。
カード類は少なく、スーパーやドラッグストアのポイントカードが数枚。それからレシート……だいたい同じスーパーのものだった。
じゃがいも、鳥挽肉、キャベツ、豆腐、もやし、醤油、食パン。
「なんか主婦みたい……」
見てはいけないものを見てしまった気がして、私はそのまま財布をしまった。
スマホに、由佳ちゃんからメッセージが入っていた。明日の退院、迎えにくる時間が綴られている。
和佳の家ってどこだっけな。
そういえば彼女の家に行ったこと、一度もない。