自分が生きている意味なんて、ちゃんと大神伊織だった頃だってそんなにわかっていなかった。

 ただ毎日学校へ行って、部活に出て、家じゃ親が作ってくれるご飯をぱくぱく食べて、勝手に綺麗になっているベッドでぐうすか寝ていた。

 自分でどういう人間になりたいかなんて、ちっとも考えていなかった。将来のこと、深く考えたことなんて、一度もなかった。

 私が生きている意味って、なんなんだろう。

 もはやきちんと生きているのかどうかもわからなくなってしまった今の状態で、私はどうすべきなんだろう。何をして、何のために生きていけばいいんだろう。

 看護婦さんから退院の日を告げられたときが、たぶん現実に侵食されきった瞬間だった。

「森宮さん、二学期からは学校にいけるわよ」

 私はぽかんとして、それから「あ、ハイ」と馬鹿みたいな返事をした。

 学校。

 考えてもいなかった。退院した後のことを、まったく考えていなかった。ずっとこの病室にいるんだと思っていた。

 世界が終わる日まで、モノトーンな思考の糸で病室を埋め尽くしていくだけなんだと思っていた。

 心のどこかで、まだ夢だと思っているのかもしれない。この病院から出る日は、きっと目が覚めるときだ、って。

 でもその日が、夏の終わりが、近づいてきても、夢は覚める気配がない。

 病室で思考の糸を紡ぐことをやめ、私はガラス張りのロビーに通い詰めるようになっていた。日長一日、遠くに見える夏の終わりの雲を眺めながら、それが止まってしまえばいいのにと思う自分がいる。

 むしろ、世界なんか、終わってしまえばいい。日に日に、なぜだかこの世界への恐怖が、どんどん募っていく。

 暗くなったロビーの窓には森宮和佳の姿が映っている。

 私が私を見ているだけのはずなのに、睨まれているような気がする。