「ほたる?どうしたの?顔、真っ青だよ?」
席に戻った私にさなちゃんが心配そうな顔をして覗き込んでくる。
「……どうしよう?私、東条くんを怒らせたかも」
「は?なんで東条がほたるを怒るの?」
東条くんの態度に混乱して、不安になって、さなちゃんにそう訴えると、彼女は不思議そうな顔をした。
さなちゃんには東条くんに告白されたことは話していないから、こんなことだけ言われても混乱するだけだってのは分かっていた。
でも、今の私は東条くんを怒らせたかもしれないという不安の方が大きすぎてさなちゃんに説明する余裕もなかった。
訝しむさなちゃんを前にして、私はもう一度東条くんの席の方を見る。
彼は私の視線には気づかないで、外間くんとの会話に夢中だ。
もう一度彼のところに行こうか?怒らせてしまったのならすぐにでも謝りたい。
そして、告白の返事をしたい。
私も好きだって、付き合って欲しいっていうんだ。
腰を浮かせた瞬間、教室の扉が開いて担任が入ってきた。
みんなが自分の席に戻って、辺りが静まる。
私も諦めて腰を下ろした。
1時間目が終わったら、すぐにでも東条くんのところに行こうそう決めて、とりあえず1時間目の授業である数学の教科書を机の上に出した。
授業が終わったらすぐにでも……。
そう思っていたのに、気づけば昼休みまで彼と話すチャンスは全くなかった。
週当番の仕事を頼まれたり、園芸部の顧問に呼び出されたり、私の時間が空いたかと思えば、東条くんの方が教室からいなくなったりして、結局昼休みになってしまったのだ。
さなちゃんと一緒に中庭の木陰を目指し、お弁当をもって歩きながら、私は溜息をついてばかり。
さすがにさなちゃんも気になったようで、お弁当を開く手を止めてまで、私に詰め寄ってきた。
「ほたる、今日はずっとおかしいよ?東条と一体なにがあったの?」
「さなちゃん……」
本当は東条くんにちゃんと告白の返事をしてから、さなちゃんに報告したかったんだけど。
昼休みに入るなり、東条くんはバレー部の先輩に連れていかれてしまったから、結局この時間も彼と話はできそうになかった。
「実は、ね」
大好きな人から告白されて、天にも昇るような高揚感の中で報告できるはずだったのに、今、私は底の見えない沼に放り込まれた気分だ。
身動きすら取れずにもがいて、足掻いてる。