夏の夕暮れは、オレンジとか赤紫とか、温かい色が混ざり合っていて、
眺めていると、とても優しい気持ちになる。
あの日大好きな向日葵が咲く校舎前の花壇で、私はキミが紡ぐ言葉の全部を、
そんな優しい景色の中で聞いた。
今日、今から紡ぐ私の言葉も、同じだといい。
「東条くん、私、東条くんのことが好きです。私と付き合ってください」
目の前の東条くんの顔が見るまに景色と同化していく。
驚いて見開かれた目が私をまっすぐに見つめている。
ちゃんと伝わっただろうか?
私の人生初の告白は。
「ずるくねーか」
大きな溜息と同時にこぼれた東条くんの声。
「ズルイ?」
「ずるいだろ、俺の計画が全部パーになっただろ」
「計画?」
何か計画を立てていたのだろうか?
あのカフェで彼は一つ提案をした。
『学校の花壇になにか花植えたくないか?』
それが計画だったのだとすれば、なにもパーにはなっていない。
無事にコスモスの種は植えられたし、秋、この花壇は満開のコスモスで一杯になる。
それを、またこうして東条くんと一緒に見ることができる。
「俺から言うつもりだったんだ」
ちぇ、とそんな声を落としながら彼が口を開く。
「え?」
「あの日のあの時間には戻れねーけど、俺が結城に言った酷いことも消せないけど、それでも、今日あの時みたいにこの場所で告白するところから始めたかったの!」
「あ……」
あの日は向日葵が咲いていたから、代わりの花を植えて再現したかったってことなのか……。
彼の計画が分かると、確かにパーにしてしまったのは私だ。
でも、私は全然後悔していない。
だって、今から始まる未来は幸せに満ち溢れていると自信持って言えるから。
「へへっ、先に言ったもん勝ちだし」
「はぁ?」
「それよりも、東条くん、返事は?」
「お、まえなぁ……」
呆れたように苦笑する彼の手に、私は思い切って自らの指を絡ませた。
「結城って、結構積極的だな……」
「え、こういうのイヤ?」
不安になって問いかければ、絡ませた指を強く握りしめられた。
なんだか恥ずかしくなって、俯いて足元を見る。
隣に並ぶ東条くんと私の陰が、足元から長く伸びていくその先に影も手を繋いでいるのが見える。
「全然。でも、ちょっと悔しいなって思ったんだよ」
「悔しい?」
「結城にばっかり驚かされるのはさ……あ!」
突然声を上げた東条くんに驚いて隣の彼を見上げた。
「……!」
視界に一瞬東条くんの笑顔が映って……。
優しい熱が唇に降りてきた。
「仕返し?」
すぐに離れた唇が意地悪を紡ぐ。
怒っていいのか、喜ぶべきなのか、よく分からない。
でも、隣で嬉しそうに笑う東条くんを見上げて、私も一緒に笑った。
END