「コスモスが好きかな……」
「コスモス?」
さすがの俺もコスモスは知っている。
花屋で見るんじゃなくて、近所の畑や山や公園なんかで結構目に入る。
「お花屋さんのアレンジしてあるのも好きだけど、やっぱり切り花よりは広い場所でたくさん咲いている花の方が見ていて元気がでるし……」
「女ってバラとか、高価な花の方が好きなんだと思ってた。うちの姉貴は彼氏にバラの花束強請ってたし」
花屋の中でいうにはちょっと躊躇われる会話だが、何となく結城らしいと思ってしまう。
姉貴の話をすると、結城は楽しそうに笑いながら言った。
「バラの花束もきっと素敵。でも、私はやっぱりコスモスがいいや」
「そっか。おし、コスモスって今でも植えられるもの?」
「今植えたら秋に満開のコスモスが見れると思う」
「じゃあ、たくさんの種を買おうぜ」
そう話してコスモスの種を、学校の花壇に合わせた量を買った。
そうだ。俺が提案したのは、今均してあるだけのあの花壇に2人で新しく花を植えたかったんだ。
せっかく植えるなら、結城が好きな花がいいと思った。
駅に着くと丁度目的方向の電車が来ていて、俺たちはそれに飛び乗る。
他愛のない会話をしながら、学校迄の道のりを、俺は結城と手を繋いで進んだ。
「スコップとか借りてくるね」
「じゃあ、俺は水の用意しておくわ」
学校に着いた俺たちはそれぞれ動いて花壇の前で種を植える準備を始めた。
時々風が吹いていたが、さすがに8月の午後は暑い。水族館からひたすら学校に向かっていた俺たちは昼食もまだだったことを思い出して、種まきを中断して近くのコンビニに向かった。
学校近くのコンビニにはジャージ姿の同級生や下級生達の姿もあって、一緒にいた俺たちを驚いた様子で見ている奴らもいた。
好奇心の視線を無視して、結城と俺はおにぎりと飲み物を買って、再び学校へ戻り、花壇の前で簡単に昼食を済ませた。
俺がカフェで提案した、学校の花壇に花を植えるという目的をただ実行する俺に、結城はその理由も何も聞いてこなかった。
ただ一緒に作業するのが楽しいと、純粋に楽しんでくれているのが嬉しかった。
こんな暑い中で、土いじりなんて、普段の俺なら絶対しないし、結城だってこの暑さはキツイだろうに文句ひとつ零さない。
俺って本当に我儘だし、自分勝手だよな。
だけど、俺がダメにしてしまったあの日の告白を、もう一度やり直したかった。
あの時は結城が植えてくれた向日葵が、俺に勇気をくれたから。
だから、今2人で植えた花に勇気をもらいたい。もう一度、俺が大好きなコに告白するための勇気。
あの時からもう一度始めたかった。