「浜野のこと、振ったんだ?」


どの位時間が過ぎたのか、頼んだジュースが空になってしばらくして、俺はゆっくりと口を開いた。

目の前の結城がハッとした様子で顔を上げて俺を見る。


「だって……私が好きなのは、ずっと東条くんだけだし」


頬を染めて零す結城からの嬉しい言葉に胸が詰まった。


「……山見さんに告白されたんだ?」


続けて結城が言って、俺はそれに頷く。


「ちゃんと、断ったから。俺が好きなのは……分かってるだろ?」


さすがにそう何度も好きだと連発するのは恥ずかしすぎて誤魔化してしまった。

そんなズルイ俺に気を悪くした様子もなく、結城は照れた様子で頷く。


「アイツらに背中を押されるのは癪な気もするけど……」

「確かに」


顔を見合わせて笑う。

引っ掻き回された相手に取り持たれるのは、ちょっと情けない気もした。
でも、これ以上話をややこしくもしたくなくて、俺は姿勢を正して結城に向き直った。

何かを察したのか結城もそれに倣う。

アイツ等に乗せられるのも嫌だし、かと言ってせっかくのアイツ等の好意を無駄にするのも嫌で。

俺は改めて結城に告白しようと決めた。

そんな俺の視界の脇で、花瓶に飾られた一凛の向日葵が目に留まる。

そういえば、あの日、初めて結城に告白した時には学校の花壇に結城が育てた向日葵が咲いていた。
山見によってめちゃくちゃにされた向日葵は片付けられ、今は土が均されてそのままだった。

俺はハッとしてスマホの時計を見る。
丁度13時を過ぎたあたりで、メールには東雲からランチの誘いが入っていた。

それに俺は速攻で返して、結城に向かって一つの提案をした。


「今から?」

「……ダメか?」

「……いいけど、さなちゃん達に言ってからでないと心配するかも」

「大丈夫、今メールを東雲に送っといたから」


それならと俺の提案を受け入れた結城と共にカフェを出て駅へ向かった。

目指す場所は、俺たちが始まるはずだった場所。

駅に向かう途中で花屋を覗く。


「結城、向日葵の他に好きな花ってあるの?」


店内に飾られた花に目移りしながら、結城は少し考える様子を見せた。

匂いに酔いそうな程たくさん咲き誇る花の中には、向日葵はもちろんのこと俺が知らない名前の豪華な花や、既にアレンジされているバスケットの中の花。

普段用のない場所はほんの少し居心地が悪かったりもする。