「あのバーベキューの日に東条くんが言ってくれたこと、本心だとしたらすごく嬉しい」
「本心だとしたらって?俺、マジで言ったんだけど?」
俺の気持ちを信じてもらえていなかったんだろうか?
俺なりに精一杯の告白を、結城がどういう風に受け止めていたのか今の言葉ですごく不安になった。
「私ね、東条くんに好きって言ってもらったの2回目なんだ……」
「……?夏休み前だろ?ちゃんと覚えてるよ」
「あの時の告白がすごく嬉しくて、でもすぐに返事はできなくて、次の日に返事しに行ったの。体育館の裏に東条くんのことを呼び出した」
「え?」
結城の言葉に首を傾げる。
体育館の裏で結城が俺を呼び出した?
覚えのないその話を聞いているうちに、胸の中に重く暗い何かが溜まっていく気がした。
「でもね、東条くんに……勘違いするなって、迷惑だって言われて」
「待てよ!」
結城の言葉を遮った。
結城が嘘を吐くわけないって分かってる。でも、俺の記憶にない結城の中の記憶に俺は戸惑うしかない。
「俺は、そんなこと言ってない」
「……うん。東条くんの中ではそうなんだよね。私が聞いたのは、多分、東条くんの頭のケガのせいなんだよね……」
「え?」
「東条くんが頭を打ったこと、そのせいで記憶が曖昧だったり、様子がおかしかったのもちゃんと分かってる」
分かってる、と繰り返しながらも結城の表情は暗い。
確かに結城の言う通り、夏休み前から手術をするまでの自分の記憶は曖昧だ。
家族からもその話は聞いていたけれど、そこまで問題はないと思っていたのに、結城にとってはそうじゃなかったって事か?
「夏休み前の東条くんの気持ちとか、今の東条くんの気持ちを信じたいの。でも、どうしてもあの時の東条くんの言葉を思い出しちゃうの」
俺が言った、今の気持ちと違う俺の言葉が結城を苦しめている。
その事実が俺を打ちのめす。
「俺のこと、信じられないってことか……」
「信じたいって、信じようって思ってた。でも、今日山見さんと一緒に来たよね」
「それは、アイツが勝手に」
さっきまですごくいい雰囲気だったはずなのに、今は漂う空気が重たく苦しい。
こういうのって自業自得って言うのか?
でも、頭のケガは俺のせいじゃないし、記憶のない間の事を責められても俺にはどうしようもできない。
どうすればいいのか、何も思い浮かばない。
目の前の結城も自分が言った言葉を後悔しているみたいに、唇を噛んで俯いている。