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水族館の中はたくさんの人でごった返しの状態だった。
優雅に群れを成して泳ぐイワシの間を突っ切るようにして泳ぐサメみたいに、俺は結城の腕を引いて人込みを突っ切って歩く。

水族館の中をこのスピードで歩くのはきっと自分達だけだ。みんな水槽を眺めながらのんびり歩いているというのに。

それでも異質な自分達を気にするイワシはいなくて、俺は思うままに進んでいった。

裏の入り口で再入場のスタンプを、結城と俺の手の甲に押してもらって屋外に出た俺は、初めて息ができたみたいに喘ぐように息を吸った。

潮風が思い切り肺を満たし、空調の効いた屋内とは異なり、照りつける太陽にジトリと浮き出した汗が肌を湿らす。


「暑いな」

「晴れたね」


零した愚痴を拾って、結城は空を仰いで眩しそうに目を細めている。
彼女の白い肌がチリチリと焼けるんじゃないかと気になって日陰へ向かう。


「俺も」

「え?」

「俺も、今日結城と水族館を一緒に回るのを楽しみにしてたんだ」


思い切り吐き出すみたいにして言った。
さっき結城が言ってくれた言葉が思いのほか嬉しくて、ついこんなところまで引っ張ってきてしまったのは、どうしてもこれが言いたかったからだ。

あの日、バーベキューの日には結局もらえなかった返事を気にしているのは、他の誰でもない自分で。

今日こそはその返事をもらって、もし結城が俺と同じ気持ちだったら「付き合おう」って言うつもりだったんだ。


「……うん」

「俺が、一緒にいたかったのは結城だから」

「う、うん」


普段よりも大きく見開かれた結城の目が俺をまっすぐ見ているのが嬉しかった。

浜野じゃなくて、俺だけを見て欲しかった。


「私も、一緒にいたい」


すぐにそう返してくれる結城の頬は、真っ赤で。
恥ずかしいんだろうに、必死に答えてくれるのが本当に嬉しい。

掴んでいた結城の腕を離すと、途端に不安そうに黒い瞳が揺れる。
その目を見ながら、今度は彼女の指の間に自分の指を交差させるように絡ませて手をつないだ。

所謂、恋人繋ぎ?


「えっ、えっと……」


さらに赤く熟れてしまった結城の頬を見ていたらなんだか無性に楽しくなってきた。

きっと聞きたいことはお互いにあった。
でも、今この瞬間無粋な言葉とか、言い訳とか、何もいらないんじゃないかって思った。