私達は席の中央位に空いている場所を見つけて、4人が並んで座った。
周囲は賑やかなのに、私達がいる空間だけは誰も何も喋らなかった。

というか、口を開いても明るい話題なんか何も出てこない気がして、固く結んでしまっている状態。

チラリと隣に座った東条くんを見上げる。
彼は真っすぐにイルカたちが泳ぐプールを見ていた。

一文字に結ばれていた口が、ふっと息をこぼすように開いて、ポツリと言葉が落ちた。

彼の口を見ていたからそれに気づいて、彼の言葉を聞き逃さずに済んだ。


「悪かったな、2人きりで回っていたのに邪魔して」


周囲は賑やかで、気にしていなければ聞き逃してしまいそうな東条くんの声。

でも聞こえてしまったから、私はしっかり受け取って彼に返す。


「東条くんこそ、山見さんと2人で……っていうか、朝からずっと一緒だったね」

「それは……っ、」

「別に責めてないし、邪魔したのはこっちかなって」

「はぁ?」


不機嫌に跳ね上がった東条くんの声も、周囲の喧騒に紛れてしまうのか、私の隣にいる浜野くんにまでは届かなかったみたいだ。

浜野くんはイルカのジャンプに感嘆の声を上げている。


「結城だって、浜野と一緒にいるじゃんか」


まるで拗ねているような口ぶり。
そう聞こえてしまうのは、私の勝手な思い込みなんだろうか?


「わ、私は今日、東条くんと水族館見て回るのを……楽しみにしてたもん……」


どんどん尻つぼみになっていく自分の声。
こういう時にちゃんと自分の気持ちを言えない気の弱さは、自分でもいやだと思う。

東条くんに聞こえなかったら意味もない。


「……結城、イルカのショーどうしても見たい?」

「え?」


突然そんな風に言われて戸惑ってしまった。
これからイルカのショーが始まるのに、どういう意味だろう?


「イルカ、見に来たんだよね?」

「……っ、俺らは次の回で見ようぜ」


そういうなり、いきなり私の腕を掴んだ東条くんが、立ち上がって通路側に座ってた浜野くんに「俺ら、ちょっと抜ける」と言い捨てた。

驚いた顔をする浜野くんがなにも返せないでいるうちに、東条くんに腕を掴まれた私は半ば引きずられるようにして人の波を抜け、水族館の屋内へと戻っていく。

一体どうしたというのだろう?
一緒にいた山見さんを置いてきてもよかったんだろうか?
東条くんは何を考えているんだろう?

疑問符の嵐に襲われつつ、だからと言って彼の手を振り払う気にもなれずにただ黙々と彼について歩いた。