東条くんと話をしたいのに、山見さんがずっと隣にいてできない。
何故か浜野くんと一緒に水族館を回ることになってしまった私は、鬱々とした気分を引きずりながら大水槽の前で魚の群れをぼんやりと見ていた。
「結城、あの日の返事聞かせてくれる?」
「え?」
まさかこんな場所で聞かれるとは思っていなかった。
というか、山見さんが東条くんと一緒に来た時点で、申し訳ないけれど浜野くんの告白の事をすっかり忘れてしまっていた。
でも、丁度いい機会なのかもしれない。私の気持ちは最初からずっと同じ。
浜野くんはとてもいい人だと思う。でも、彼をそういう目で見ることは今後もないと思うから。
「浜野くん……。私の事を好きだって言ってくれてありがとう。びっくりしたけど、嬉しかった」
どんな言葉で前置きしても、最後の答えはきっと彼を傷つけるものかもしれない。
でも、告白をするってことはとても勇気のいることだって知ってる。私に伝えてくれた気持ちは本当にうれしいから、だからせめてお礼が言いたかった。
「『でも』って、続くんだよなその後」
先回りされて、浜野くんを見上げる。真っすぐに見つめてくる彼の目はとても真剣で、私がこれから与えてしまうだろう傷を真摯に受け止めようとする優しさを含んでいるように見えた。
こんな優しい人を傷つけてしまうんだ。私は。
でも、仕方ないんだ。好きな人以外には人は残酷になるものだって、何かの本で読んだことがあった。
だからこそせめて、真剣な思いには真剣に答えたいと思う。
ありがとうって。でも、ごめんなさいって。
「うん。……浜野くんとはお付き合いできません」
「……分かった。ちゃんと答えてくれてありがとう」
私だったらきっと笑えない。
でも、浜野くんは私の事を気遣ってか、笑顔でありがとうと言ってくれた。
そんな彼を見ていたら、すごく切なくなって思わず泣いてしまった。
ここは水族館で、周囲にはたくさんの人がいる。
顔を覆って下を向く私を、好奇の視線が向けられるのを分かっていながら泣くのをやめることができない。
浜野くんだって、困るのに。
手の甲で何度も目元を拭った。
不意にその手を掴まれて、腕を引かれた。
大水槽から離れて人の通りから離れた壁際に寄せられる。
その間私は足元しか見ることができずに、早く泣き止まなくてはと、必死で目元をこする。
「目元に傷がつくから、もうやめなよ」
優しい手が私の手を止めた。それに甘えて、落ち着くまでひとしきり泣いてしまった。