東条くんのお姉さんにはお願いしますと言えたのに、どうしてか当の本人にはいまだ告白の返事を言えていない。

バーベキューの帰りの車の中では前方後方から生温かく見守られている雰囲気が伝わってきて、恥ずかしさのあまり何もしゃべられなかった。

あの日から既に1週間が過ぎている。

カレンダーは月の後半を示していて、このまま新学期まで東条くんに会えないんじゃないかって本気で思っていた。

そんな時にメールアプリに東条くん本人から、水族館に行こうとお誘いがあった。

さなちゃん達も一緒のWデートだ。
未だ自分の気持ちを伝えることができていなかった私を気遣ってくれてのWデートだったのかもしれない。

だって、いきなり二人きりってのは、緊張するし。
1年の時の買い出しとはわけが違う。

東条くんのメールの直後にさなちゃんからもメールが入って、同じ内容が書かれてあった。

2人にOKの返信をして、早速その日着ていく服のチェックを始めた。

まだ恋人じゃないけれど、それでも東条くんの隣を歩けるのは嬉しい。
水族館かぁ……。一緒にイルカ見たり、タッチングプールで海星とか、海鼠とか触ったりするんだ。

まぁ、海鼠はちょっと苦手だけど。
東条くんはイルカ好きかな?それともサメとか、意外にもペンギンとか?

想像するのは東条くんと過ごす楽しい時間のことばかり。Wデートのはずなのに、想像の中には二人しかいないなんて、贅沢だし独りよがりの気もする。

凹んだり上がったりを繰り返しながら、水族館デートの日を楽しみにそれからの数日を過ごした。

当日の朝は生憎の曇り空で、秋雨前線の影響で大雨の予報も出ていた。
それでも私の中では、大好きな人達とのデートに晴れマークを付けたい気分だった。

半日かけて選んだ今日の服は、白地にアジアンテイストの刺繍が胸元を飾るAラインのワンピースにエアコン対策の夏用カーディガン。

倫が目敏くチェックして、渋々のOKサインを出してくれた。

待ち合わせは最寄り駅。

家を出ると同時に振り出した雨の中を、傘を差して歩く。待ち合わせの時間15分前に着いて、皆が来るのを待っていた。


「ほたる~」

さなちゃんの声が聞こえて、その隣を歩く東雲くんの姿……と?


「浜野、くん?」


あの日、スポーツセンターで別れてぶりの、浜野くんの姿があった。

どうして、浜野くんがいるの?

驚きを隠せない私の下にさなちゃんが駆け寄ってきて、こそっと耳打ちする。


「東雲の家に遊びに来たんだって。無下に帰すわけにもいかなくて……私達が待ち合わせてるって知ったら、皆で行こうって話になっちゃって」

「そうなんだ……でも、まぁ、大勢の方が楽しいかもしれないね」


そうは答えたけれど、正直戸惑いの方が大きい。浜野くんから告白をされてその返事ができていない状態で彼に会うのは避けたかった。