「ほたるちゃん、こっちこっち」
「お姉さん」
テーブルを車にしまっていた東条くんのお姉さん達に呼ばれて近づく。
「あのバカップルはもう少し放っておこう」
「あはは。バカップルですか」
確かにバカップルに見えなくもない。でも、さなちゃんと東雲くんが仲良く見えるのはすごく嬉しいし、ちょっと羨ましくもある。
おいでおいでと呼ばれて、車の脇に出してあるベンチシートにお姉さんと並んで座った。
東条くんのお姉さんとは、あの浴衣の着付けの時に初めて話をしたんだけど、すごく気さくなお姉さんだ。
私には弟しかいないから、お姉さんという存在に憧れもあって、彼女の事はすぐに好きになった。
自分の気持ちをうまく表現できるわけじゃないから、ちょっと心配だったけど、お姉さんもとてもよくしてくれる。こうして仲間内のバーベキューにまで誘ってもらえたし。
「今日は誘ってくださってありがとうございました。すごく楽しかったです」
固いよーと笑いながら、それでも満面の笑顔を向けてくれるお姉さん。
「ほたるちゃんは、ぶっちゃけうちの愚弟のことどう思ってるの?」
本当にぶっちゃけ聞かれた。
えっと。
本人に伝えられていないのに、お姉さんに先に伝えるのはどうしたものかと思いはしたけれど、他の誰でもない東条くんのお姉さんだ。
「えっと、入学式の日に……その、一目惚れというのをして……」
「うっそ?一目惚れ?アレのどこにそんなものができる要素が?」
「おーい、お前の弟だけどー」
話が聞こえていたのか、コタローさんが東条くんをフォローしてくれる。
聞かれていたのは恥ずかしかったけれど、お姉さんの彼氏さんも、お姉さんと同じ位にいい人みたいで私もすっかり気を許していた。
「そっか。朔の片想いかと思ってたからね。良かった。うちの愚弟を末永くよろしくねぇ……」
「おーい、嫁に出す父親かよ」
「お姉さん……」
コタローさんの突っ込みを軽くいなして、お姉さんは私をギュッと強く抱きしめてくれる。
8月の猛暑の中、暑いっちゃー暑いんだけど、離れたくないなって思ってしまった。
「ほたるちゃん、朔って、お調子者のところあるけど、根は真面目だから。ほたるちゃんのことちゃんと大事にするって思う。だから、それでもアイツがなんかバカなことやったら遠慮なく私に言ってね?懲らしめてやるから」
語尾に何か得体のしれないものが含まれた口調にドキリとしたけれど、これ以上ない強力な味方ができてしまった。
「ふ、不束者ですがよろしくお願いします……」
まるで嫁に行ったみたいな挨拶にお姉さんとコタローさんと、私も思わず吹き出してしまった。