「俺とお前って、男兄弟に見えるらしいぞ……って言われたの」
「お、男兄弟?」
「そ。失礼しちゃうよね。思春期の女子捕まえて男はないでしょ」
「そうだよ、失礼だよね」
「だから、最初は喧嘩売りに来たのかって思ったんだよね」
洗い物がどんどん減っていく。さなちゃんは話しながらもすごいスピードで食器を洗っていく。すごい集中力だ。
「浴衣着てても、東雲を蹴っ飛ばす位できるけど?って、言い返したら……」
「言い返したら?」
「か……ふぎゃ!」
突然さなちゃんが潰れたような声を上げて、驚いた私が隣を見ると、さなちゃんの頭の上に、いつの間に現れたのか、東雲くんの顎がのっかってた。
「東雲くん?」
「俺の名前が聞こえたから来てみたんだけど……」
「東雲、重い!」
「晶!」
「え?」
「さな、東雲じゃなくて、晶だろ?」
東雲くんは顎をさなちゃんの頭にグリグリ押し付けながら、不機嫌な声で言う。
しかも、さなって呼び捨てだし。
「ちょ、ほたるいるんだよ?」
洗い物をする手を止められずに、真っ赤になったさなちゃんが東雲に反論する。
「だから?」
「な、名前は二人の時にって……」
全然怯まない東雲くんに、防戦一方のさなちゃん。
「お前、ずっと結城の傍にいるから全然2人になれないし?」
「それは、だって……」
「……ごめん。お邪魔だったよね」
申し訳なくなって、東雲くんに謝ると彼はフルフルと頭を振った。
「別に、それはいいの。その代わりに名前呼べってこと。可愛い我儘だと思わねー?」
「可愛い、我儘……」
こんな風にストレートに好意を示すものなんだって、一種感動を覚えた。
東雲くんが特別なのかもしれないけれど、東条くんにこんな風にされたら、私だって恥ずかくてどうにかなりそうだ。
さなちゃんが真っ赤になって口をパクパクさせている気持ちがよく分かる。
「わ、私、向こうの片づけしてくるね」
「ほ、ほたる!」
さなちゃんが私にヘルプを目で訴えてくるけど、ごめん、無理だ。
あの東雲くんの甘えっぷりを間近で見るのは耐えられない。
ごめんと手を合わせて2人の傍から一目散に逃げ出した。
結局2人の馴れ初めは聞けなかったけど、もうなんかいいや。お腹一杯。
もしかして東雲くんは、私達が何を話しているか気づいて妨害するために近づいてきたんじゃないかって思ってしまった。