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一体何が起こったのか、頭の中がゴチャゴチャだ。
隣でさなちゃんが矢継ぎ早に聞いてくる言葉もほとんど耳に入ってこない。
今、何が起こったの?
東条くんに「好きだ」って言われた?
抱き寄せられた?
勘違いじゃなくて?
「ほたるー、おーい、戻ってきてよー」
隣にいながら意識が遠くへ飛び立っているのだと解釈したらしく、さなちゃんが一生懸命私を呼んでいる。
でも、今は無理。
だって、今しがた起こったことが衝撃的過ぎて、自分でもパニック状態なんだもん。
東条くんに持たされた野菜を、コタローさんに渡して、さなちゃんに引きずられるようにして木陰へ移動する。
ベンチに座るように言われて、されるがままの私にさなちゃんは頭をよしよしと撫でてくれる。
混乱した私を安心させてくれるみたいな優しい彼女の手に、少しずつ落ち着いてきた。
「さなちゃん……私、東条くんに好きだって言われた」
「!……それで?」
「なんか、前の告白も勘違いじゃないって、言われた」
「そっか!それで?」
「それで……」
引き寄せられて、腕の中に閉じ込められて……。
さっきの場面を思い出して、頭から……ううん、全身から湯気が噴き出すみたいに熱くなる。
「ほたる、真っ赤だよ」
「だって!」
赤いのは自覚している。体は熱いし、顔は真っ赤に熱を持っているのを自分でも自覚している。
でも、どうしようもできない。
東条くん、本気で言ってくれたのかな?
不安に思ってしまうのは、やっぱりあの日の記憶が私には明確に残っているから。
でも、またあんな風に切り捨てられたら、今度はもう。
「大丈夫じゃない?東雲から聞いたけど、あの時のこと本当に覚えていないみたいよ。頭を打ったことでいろんな症状が出るって東条くんのお母さんも話していたじゃん?あの時のことも脳が混乱して言わせただけかもしれないじゃん……てか、きっとそうだって」
さなちゃんの言葉を聞いて、ほんの少しホッとした。
それに、その言葉を信じたいって思ってる。
さっきの東条くんの言葉は本心だって。本当に真剣に言ってくれたのが分かるから。
「うん」
「やったぁ!夏休みWデートしようね、東雲と私、東条くんとほたるで」
「え?Wデート?」
「付き合うことになったんでしょ?だったらいいじゃん。夏休みはまだまだたくさんあるんだし」
テンションの高いさなちゃんを前にして、ふと止まる思考。
東条くんと私、付き合うことに……なってない。
だって、私返事していないし。それって、まだ恋人にはなれてないってことだよね?
「……返事をしていない?」
「う、うん。びっくりして、その……なんていうか」
「なにそれ。ならさっさと行っておいで。ほら、いますぐ」
背中を押すさなちゃんにちょっと待ってと返す。
さすがに今すぐ東条くんに返事をしに行くのは恥ずかしくて何も言えない。
そう言うとさなちゃんは呆れ顔で、盛大な溜息を吐かれてしまった。