「結城?」
「もうヤダ。あの時みたいに、好きだって言われて有頂天になってる私に、また酷いこと言うの?私がどれほど傷ついたか……ずっと好きだった人に、軽蔑してるって言われた私のあの時の気持ちが東条くんに分かるの?」
結城にしては珍しくかなり怒っている。
怒鳴りつけるみたいに俺を責める彼女の口から出てくるのは。
『好きだって言われて有頂天になって』
『ずっと好きだった人に』
なんだよ、これ。
怒られてるのに嬉しくって笑っちまう。
ずっと堪えていたらしい涙をホロホロと零しながら、それを隠そうともせずに俺を睨んでいる結城。
「好きだ」
「⁈……っ、だから!」
「結城が好きだ。1年の入学式で初めて言葉を交わした時から、俺はずっと結城が好きだったんだ」
「?」
睨んでいたはずの結城の表情が戸惑いへと一変する。
瞳孔が右へ左へと揺れて、動揺している様子がなんだか可愛くて仕方ない。
俺に握られている手を解こうともせず、逃げようともしていない。
そんな結城に、俺はもう一歩先へ進む。
結城の腕を引いて、距離を縮めた。
簡単に俺の胸に引き寄せられた結城は、慌てて身体を引いたけれど、俺は離してなんてやらなかった。
「と、東条くんっ」
ここが野外で、他にもたくさん見知った顔がいる中で、俺の腕の中にいる結城はさぞ恥ずかしかったんだと思う。
でも、腕を回して抱きしめているわけでもない。
ただ、両手首を掴んで引き寄せただけ。本気で逃げようとすれば逃げられるはずだから、俺は自分のいいように解釈した。
「なぁ、返事聞かせてくれねーの?」
「へ、返事っ?」
「俺、結城に2度も告白したのに、一度も返事もらえてないんですけど?」
「あ、で、でもっ、この態勢で……」
見下ろした結城の耳が真っ赤だった。
強く拒否するわけでもない、身じろぎ程度のジタバタも、俺を喜ばせるだけだって気付かねーのかな。
俺だって、恥ずかしくないわけじゃない。
でも、洗い場はなんとなくみんなの視線から隠れていて、それでも見ていた人間はいるわけで。
俺の視界には、結城の真っ赤になった耳と、驚いた様子の田村と揶揄う気満々で近づいてくる東雲の姿が見えていた。
「仕方ない……返事はまた今度でいっか」
「え、あ、あの……」
結城を解放して、彼女に切った野菜が入ったバットを渡して持っていくように促した。
もう熟れ過ぎじゃないかって位真っ赤になった結城は、それでも俺の言う通りに洗い場を出て行く。
その途中で田村に詰め寄られているのが見える。
俺のところには真っすぐに東雲がやってくるのが見えた。
東雲の揶揄いを甘んじて受ける覚悟で、次はどんな手で結城を攻めようかと頭の隅で考えた。