「結城、それ運ぶ」


切った野菜を炭火の近くまで運んでいた結城に声をかけた。


「大丈夫。そんなに重たくないから」

「そうか?」


アッサリと振られて去っていく彼女の背中を茫然と見送った。


「結城、肉焼けたぞ。食えよ」

「私はまだあとでいいから、ほら、向こうの人にあげてください」

「……」


確かに結城の性格だと、自分の仕事は自分でしないと気が済まないだろうし、他人よりも先に食べるとかできないだろう。

分かっている。嫌というほど、結城の性格を。
それでも、話しかけること全てをこうして拒否されていると、正直凹む。
それどころか、何故か結城は俺と距離を取りたがるし、近づいて一言二言喋ったら、何か用事を見つけて離れていく。

なんだよ、それ。

俺は結城と違って短気で、怒りっぽい性格だから、こんな態度をされると結構腹立つし、傷つく。


「なんか、取り付く島もないって感じだな」


俺の行動をチェックでもしていたのか、東雲が近づいてきてポツリと零し、肩をポンと叩いた。

一応コイツなりの慰めみたいなものを感じる。


「分かってるんだけどな、お前から聞いて。そりゃあ、嫌われてるかもしれない相手に好き好んで近づいたりしねーよな。特に結城みたいな性格のやつは」


分かってはいるんだけど、どうしようもなく……。


「俺、ちょっと行ってくる」

「……ファイト」


東雲の応援に右手をヒラヒラと振って、目指すは結城ほたるのところ。

結城は足りなくなった野菜を切っていた。
遠くから見ても分かる慣れた手付きで野菜を切っていく姿に、ほんの少しみとれてしまう。


「結城!」

「キャッ、」


結城の背後から声をかけたけど、思いのほか勢いがつきすぎていて、彼女を驚かせてしまった。

カタン、と包丁を置く音がして、彼女が指を押さえるのが見えた。

え、もしかして指でも切った?


「東条くん?びっくりした」


振り返った彼女の左手の人差し指に、血が滲んでいるのが見える。


「指切ったのか?悪い、俺が急に声をかけたから」

「だ、大丈夫だよっ、たいしたことない……」

「大丈夫じゃねーだろ!手、見せろ」


こんな時まで大丈夫と返されて、俺の短気な性格が出てきて、ムカッとしてつい声を荒げてしまった。

細い指の先端が一文字に切られて、そこからジワジワと血が滲んでいる。

確か、こういう時は切った指の根元を押さえて止血するんだったよな。


「と、東条くん。手が汚れるから……」

「こんな時まで人の事ばっか気にしてんなよ」


こんな風にキツイ口調をすれば、結城が傷つくって分かっているのにどうしてもムカムカが収まらなくて、優しい言葉をかけてやれない。

案の定結城は俯いて黙り込んでしまった。