「朔、なにやってんの?」


俺を呼ぶ声にハッとして顔を上げると、姉貴が近くまで来ていて俺と山見の両方を見た。

いつの間に腕なんて組んでいたのか、山見の腕が俺の腕に絡みついていて、慌てて山見の手を払いのけた。

一瞬不服そうな顔をした彼女も、姉貴の方へ向き直る時は笑顔を見せていた。


「東条くんのお姉さんですか?」

「そうだけど?」

「私、東条くんと同じ学校の山見モカって言います」


丁寧に頭を下げた山見の頭頂部を見下ろす姉貴の顔には、なんの変化も見えない。

なんて言うか、無表情って感じ。


「そ。ところで弟に急用でもある?退院したばかりだからすぐにでも連れて帰りたいんだけど?」


初めての人間を相手にしているには、珍しく冷たい印象を与える姉貴の様子に驚きながらも、正直いって俺も山見からは早く離れたかったから何も言わずにいた。

当の山見は眉間に皺を寄せ、明らかに気分を害した様子だった。
あからさまな姉貴の態度に不信感を抱いたようだ。

それすらもどうでもいいと思いつつ、山見に声もかけずに姉貴の車に乗り込んだ。

今はアイツの顔を見ているのが苦痛で仕方なかった。

姉貴はすぐに車を発進させる。


「なに、あの子。まさか付き合ってるの?」

「まさか」

「ふうん。アンタって、付き合ってもいない女子と腕を組んだりするキャラだっけ?」

「なわけねーだろ」


詳しく説明するのも面倒で、それ以上は何も言わずにただ流れていく景色を見ていた。

山見の言葉を信じるわけじゃないけれど、それでも結城の態度や言葉には、山見の言葉を肯定するようなものに感じた。

すぐに誤解を解きたいけれど、正直あの夏休みの一週間前からの記憶が、ほぼないに等しいのが厄介だ。

こんなこと誰に相談したらいいんだろう?

俺が記憶をなくしていることを知っている人間はいないだろうし……。

東雲だったら、何か気付いているだろうか?だとしても今日は試合の後だし相談するにはタイミングが悪い気がする。


「朔、1週間後なんだけど、ほたるちゃんとさなちゃんをバーベキューに誘ったの。アンタも行く?」

「は?」


車の運転をしながら姉貴がこともなげにそう言って俺を驚かす。

姉貴のヤツ、いつの間にそんなに結城達と親しくなったんだろう?

姉貴が言うバーベキューは、毎年夏に姉貴が友人達と一緒にキャンプ場でするやつで、俺や東雲は何度か一緒に行ったことがある。
そのバーベキューに俺より先に姉貴が結城を誘っていることに、少しの違和感と悔しさを感じながらも、長い夏休み、結城と一緒に過ごせるのは正直嬉しかった。


「行くに決まってるし」

「東雲もくるんでしょ?確かさなちゃんと付き合うことになったんだってね」

「なんで俺よりも俺の友達の動向にそんなに詳しいんだよ」


東雲と田村が付き合うことになったこともつい最近聞いたばかりだというのに、姉貴の情報網の広さに驚いてしまう。