「東条くんってば!」
先を進む俺の腕を、後ろから体重をかけて引き留めた山見。
俺は前につんのめって足を止めた。
「なんだよ、」
「さっきからずっと呼んでるのに無視してる」
「じゃあ、用事があるならさっさと言えば?」
イライラする。山見に当たっても仕方ないのは分かっているが、あの時山見がきたことで結城の態度がさらに険悪なものへと変わったのは、気のせいではないはずだ。
それにコイツは、結城がせっかく育てた向日葵の花壇をめちゃくちゃにした最低な奴だ。
そういえば……。
「お前、ちゃんと園芸部の顧問に言ったのかよ」
あの日から記憶が定かでない俺は、山見がどういう行動に出たのか知らずにいた。
そういえば、あの向日葵の花壇はどうなったのだろう?
「……私、結城さんにお礼を言われちゃった」
「は?」
なに言ってんだ?って思った。結城の向日葵をめちゃくちゃにして、なんで結城が山見に礼なんて言うんだよ。
「誰かに荒らされた花壇を、私が園芸部の顧問と一緒に新しく土を入れて均したの」
「はぁ?」
「結城さんはそう思ってるみたいよ」
「何バカなこと言ってるんだ?あの花壇はお前が……」
「だって、東条くんだって、園芸部の顧問にも結城さんにも私がやったって言わなかったでしょ?」
被せるように言ってきた山見の言葉に愕然とする。
なに言ってんだ、こいつ。
「あの花壇がめちゃくちゃになった原因の一端は、東条くんにもあるんだよ?言ったでしょ?東条くんが、結城さんに告白なんてしたから、私ついイライラして向日葵に当たってしまったんだから」
山見の言い訳に吐気がした。
自分がしたことの始末もつけずに、人のせいにして、結城に謝罪すらしていないなんて。
「最悪だな、お前。お前がやったこと、俺から全部話す」
「今更?」
「今更……?」
「そう、今更だよ。あの花壇がめちゃくちゃにされたのは、夏休みに入る前だよ。東条くんも見てたじゃない。私と結城さんが花壇の前にいた時、私達待ち合わせてた。2人で一緒に帰ったの」
「……何言って」
「それから、結城さん知ってるよ?私が東条くんに告白したこととか、それで私達が付き合ってるって思ってる」
「は?」
山見の言葉の意味が分からない。でも、もしかしたら自分の記憶にないだけで、山見が言ったことが本当なのだとしたら?
俺は、大好きなコが育てた向日葵をめちゃくちゃにしていた人物を知りながら、彼女にそれを隠して、山見と付き合っているなんて誤解までされてるってことか?
次から次へと浮かんでくる現実なのかそうでないのか分からない出来事に、頭の中が真っ白になっていく。
「最低なのは、俺じゃんか」
「……私は、どんな東条くんも好きなんだけど?」
山見がサラリと吐く言葉がまるで毒みたいに鼓膜に浸み込んでくる。
あぁ、この嫌な感覚を俺は覚えている。あの時もそうだった。