「うわぁ、今のスパイク超ヤバイやつ」

「あんなの受けたら腕がもげそう」


両隣では試合に熱中する2人の声が聞こえるけど、私の頭の中はなかなか試合に集中できない。

試合が始まると、東条くんもさなちゃんも立ち上がって声を張り上げて応援し始めた。

つられて私も立ち上がって、声を張り上げるけど、意識は左隣に集中している。


「ナイッサー1本!」

「カットー!ここで切るよ!」


試合の流れにハラハラさせられる部分もあって、両隣は体全部を使って応援するから、そのたびに東条くんの肩が触れて、そのたびに私の心臓が跳ね上がる。

そっと東条くんを見上げれば、彼と目が合った。


「めちゃくちゃ、興奮するな、コレ」

「そ、そだね」


それだけ言って視線をコートへ向けた。彼から思いっきり顔を背ける形になってしまったけど、至近距離で見続けているのは結構キツイ。

久しぶりに見た東条くんは、夏休み前に見ていたいつもの東条くんと何ら変わりはなくて。

だから余計に心臓がドキドキして仕方ない。
私が好きになった彼は、いつもこんな風に明るくて元気で、バレーのことになると一生懸命だった。

やっぱり、好きだなぁ……。

そう思うと、胸がぎゅん、と締め付けられる。

でも。

そう思いなおしたのは、あの日の昼休みの彼の言葉を思い出したから。

また変なこと言って彼を怒らせたくないし、嫌われたくない。
友達でいいんだ。彼とこんな風に笑って過ごせるならそれだけでいい。

気付けば1セットが終わって、うちの高校がギリギリの点数で勝っていた。


「東雲、いい仕事してるな」

「結構なプレッシャーだと思う。堀本さんの抜けた穴埋めようって必死だから……」


東条くんの言葉にさなちゃんが苦笑いで答えた。


「東雲と必死って言葉、なかなか繋がらねーけどな」


普段からなんでもそつなくこなす東雲くんの、私達には見せない顔。彼女であるさなちゃんには、打ち明けられる思いもあるんだろう。


「勝って欲しいよね」

「……勝つよ」


独り言のようにこぼした呟きを、東条くんが拾う。

強い眼差しがコートに向けられていて、そんな彼の表情に私の心臓は落ち着かなく騒ぎ出す。


「そうだね」

「な、」


自信に満ち溢れた東条くんの眼差しは、その後もひたすら頑張る選手達に向けられていた。

いつもだったら自分も試合に出ていたかも知れなくて、だからこそ余計に応援にも力が入るのだろう。

けれど、この日うちの高校は2回戦敗退という残念な結果で終わった。