「受験に専念するからって、そう聞いたけど」


堀元先輩とはバレー部の応援に行った時に、バレーのルールを教えてもらったことがあってから、親しく話してもらえるようになった。

部活の時には重たい肥料を運ぶのを手伝ってくれたり、とても優しい先輩だったって思う。

でも、バレー部のエースで、女子にすごく人気のある人だったから、先輩と話をしているといつも他の女子から睨まれたり、わざとぶつかられたりすることもあって、先輩と2人きりになるのはすごく緊張していた。

そういえば、最後の試合は応援に行けなかったなって、今更に思う。

東条くんとのことがあってから、自然とバレー部から足が遠のいていたから……。


「堀本先輩、ちょっと可哀そうだな」

「浜野くん?」


コートから視線を上げて、隣に座る浜野くんを見る。
彼は少し寂しそうに笑って私を見た。


「どういう意味?」

「最後の試合になったなら、好きなコの応援が欲しかっただろうなって思ってさ」

「好きな、コ?」

「そう。噂で聞いたことあるよ。堀本先輩が結城の事を好きだったって」


浜野くんのストレートな言葉にドキリとする。
思わず息をのんで浜野くんをジッと見つめてしまった。


「違う、と思うよ。そんな風に誤解されたら、堀本先輩にも迷惑だよ」

「ハハッ、結城って鈍いの?それとも、東条以外には無関心なの?」

「浜野くん?」


周囲が賑やかでよかったと思う。私達の会話は誰にも聞かれずに済んだだろうから。

鈍いとか、無関心だとか、ストレートに言われるには胸に刺さる言葉だ。


「堀本先輩ほど分かりやすいアピールを受けても、好意に気付かないほど鈍感なやつだとは思わなかったけどな」

「浜野くん……もうすぐ試合始まるよ」


話題を変えて今浜野くんと私の間の重たい空気を変えたかった。でも、隣に座る浜野くんの目が私の知る彼と違って、冷たく見えて、彼から目が離せない。

私、浜野くんを怒らせることでもしたんだろうか?


「東条には振られたんじゃなかったの?」

「……」

「俺、偶然聞いたんだ。いつかの昼休みに2人が話してるの」

「……」

「東条って、山見と付き合ってるって噂もあるけど、ホント?」


山見さんの名前が出てきてドキッとした。


「……私には、分からない。東条くんに直接聞いたらいいんじゃないかな?」


思ったよりも素っ気ない言い方になってしまった。
話を打ち切りたい気持ちもあったし、東条くんと山見さんの話を聞きたくないって気持ちもあった。