「結城!」
バレー部の試合がある市内のスポーツセンターの入り口付近は、開場1時間前から県内の高校のバレー部の部員や応援の人達で賑わっていた。
私達の高校も引退試合になるかもしれないということで、普段より応援の人数も多いみたい。
私もさなちゃんと一緒に自転車でスポーツセンターまでやってきた。
駐輪場に自転車をとめて、入口へと向かう途中で聞きなれた声に呼ばれて、声の持ち主を探す。
「浜野くん」
「浜野っちもバレー部の応援?」
私を呼んでくれたのは、先日夏祭りの時にも一緒だった浜野くんだ。
彼がバレー部の応援にくるのは初めてだったと思う。
「今日は暇だったから。結城達も来るって聞いてたしな」
「?そうなんだ」
「ほら、夏祭りの日も久しぶりにみんなで集まったけど、東条のことがあったからゆっくり話せなかったしさ」
「そっか。みんなで集まるの久しぶりだったもんね。東条くんも今日退院するみたいだし、また集まろうよ」
さなちゃんの言葉に「そうしようぜ」とテンション高めな浜野くん。
よっぽど夏祭りの日の集まりが中断されたことが残念だったみたいだ。
でも気持ち分かる。私も、またみんなと一緒に遊びたいって思うもん。
……東条君とも一緒に。
そう思いながら、東条くんの姿を探したけれどまだ見えない。
病院の診療時間が始まるのが9時位だろうから、退院の時間はもう少し遅いのかもしれない。
「お、開場したみたいだし行こうぜ」
「あ、先行ってて。東雲にはっぱかけてくる」
「分かった。先に観客席に行ってるね」
さなちゃんの背中を見送る。
人込みをかき分けて彼女が向かった先には東雲くんの姿がある。彼もまたさなちゃんが来るのを待っていたみたいだ。
嬉しそうな表情が私にも見える。
「結城、行こうぜ」
「うん」
浜野くんに促されて2階にある観客席に向かった。
「涼しいね、この中」
「確かに。学校の体育館だと応援してても汗だくだもんな」
外は朝から日差しが強く、ここに来るまでにじっとりと肌に滲んでいた汗も、館内の空調によって静かに乾いていく。
高校ごとに自然と固まっている観客席の中から見知った顔を見つけて、空いている席に浜野くんと並んで座った。あとからさなちゃんや東条くんが来ることも考えて椅子を2つ余分にキープするのを忘れない。
「早速アップが始まったみたい」
見下ろせば、3年の先輩達に加えて東雲くんの姿も見える。
「そういえば、堀元先輩はこの試合出ないんだってね」
夏休みに入る前、夏の試合が引退試合になると話していた堀本先輩の事を思い出す。