「誘われたら、行くんだったよね?」
いつの間に東条くんとの会話が聞こえていたのか、耳元でさなちゃんがニヤニヤ笑うから、なんだか恥ずかしくなって彼女から顔を逸らして電話の向こうに意識を向ける。
「行っても……いいのかな?」
『いいよ。てか、なんで今更?結城、これまでも応援に来てくれてただろ?俺は出れないけど、3年は最後の試合だから、結城も応援してくれると嬉しい』
電話の向こうから届く、テンションの高い東条くんの声に、嬉しいと思う反面、どうしてもあの時の場面を思い出して苦しくなる。
東条くんはいつでもこんな風に無邪気に声をかけてくれるから、私は嬉しくって、心が浮き立ってしまう。
だから、応援にだって行っていたし、一緒に遊びにも行っていた。
でも、あの日、あの昼休みで私が彼の告白の返事をしようとした時の、彼の言葉がどうしても忘れられない。
釘を刺されたのだから、自分が勘違いしないように、自分の心を戒めないとと思うのに、こんな風に好意みたいなものを見せられるとどうしていいか分からなくなる。
私がいっそ彼と同じ男子だったら、友人として付き合うのになんの苦しさも味会わずに済んだのに。
『結城?どうした?やっぱり来るの無理?』
電話向こうの気遣う声に、慌てて返事をする。
「行く。3年生の先輩の最後の試合になるかもしれないんだったよね。さなちゃんたちと応援に行く……です」
慌てて言ったせいで、勢いがつきすぎてしまって慌てて語尾をギュッと締めた。
また、勘違いして怒らせないようにしよう。
友達として付き合えるなら、そうすることで彼の笑顔を見ることができるのなら、それで十分だ。
『……最後の敬語、ウケる。でも、そっか。来てくれるなら嬉しい。会場で待ってるから』
スマホからこぼれてきた「ふはっ」と吐かれた笑い声が、直接鼓膜を擽ったみたいでゾクリ、肌が粟立った。
スマホを耳から離し、未だ残る彼の吐息の余韻を振り払うように頭を振った。
東条くんに好きだと言われたあの日から、私は彼の言葉にこんなにも敏感に反応してしまう。
どうして彼はあんな誤解されるような言い方をしたんだろう?
嫌悪感を露わにして私を遠ざけたのは彼。でも、前みたいに気軽に電話してきて会おうとするのも彼。
私はどうすれば、前みたいに片想いを隠しながら彼と一緒にいることができるのだろう?