「今日は課題を終わらせるんだよね」
さなちゃんが、うちにやってきた理由は、夏休みの課題の消化。
中学生迄みたいにワークとして課題を与えられていた頃は、すごく楽だったのだと高校生になった今思い知る。
各教科毎に与えられえた課題の山に潰されそうになって、2人で何とかしようと集まったのはいいけれど、文系の頭だけじゃどうしようもできない課題もある。
「理系全滅だ……。こういう時東雲とか、東条くんとかいてくれたらいいのに」
「東雲くんは部活で、東条くんは入院ちゅうですよ、さなちゃん」
「ちっ、使えねー」
「こらこら、言葉が荒んでる」
さなちゃんの口調に苦笑しつつ、私もお手上げ。2人して理系の課題を前に溜息の嵐だ。
「ねぇ、ほたるのスマホ震えてるけど」
「え?あぁ、バイブにしてたの忘れてた」
クッションの上で小刻みな振動をするスマホを手に取り,液晶画面を見て、一瞬フリーズ。
「と、東条くん?」
入院している東条くんからの着信に、心底驚いてしまった。今までは彼に関する報告は東条くんのお姉さんからメールアプリで届いていて、彼からの着信なんて初めて……いや、久しぶりだ。
「どうしたの?早く出ないと切れるよ」
「えっ、あ、うん。でも、何を話したら……」
「そんなの、掛けてきたのは向こうなんだから」
「あ、そうか」
テンパっている私を呆れ顔で見ているさなちゃんは、早く出ろとジェスチャーを加えながら急かしてくる。
でるよ。出ますとも……。
「……もしもし?」
『結城、俺、明後日退院決まった』
「あ、そうなんだってね。お姉さんから連絡きたよ。よかったね」
『……なんだ、姉貴のヤツ。俺から連絡したかったのに』
「も、もう体大丈夫?」
『全然平気。今すぐにでも帰れそうなんだけどさ。明日CTの検査があるらしくってさ』
「無理しない方がいいよ。ちゃんとお医者さんの言うこと聞いた方がいい」
『結城、母親みたいなこというなぁ』
「だ、だって」
だって、調子が悪い時の東条くんを見ているから、心配で仕方ないよ。
急に倒れたって聞いたときや、手術だって聞いたときは、本当にショックだったんだから。それを母親みたいっていわれても。
ちょっと愚痴りたい気持ちを押しとどめた。
目の前でさなちゃんがなんだか生温い目で見ているのが気になって。
『明後日さ、男バレの3年生最後の試合なんだけど、俺退院した足で会場に向かうんだ。結城、応援に来るだろ?』
誘ってくれるんだって、ちょっと嬉しくなった。
必要以上に近づかないようにしようって思っていた。明後日の試合の応援だって、東条くんから誘われない限り行くつもりはなかったけど……。
誘ってくれるなら、行ってもいいのかな?