結局東条くんの退院は、入院から10日経った8/10に決まったと聞いた。

お姉さんからのメールで東条くんが元気なことを聞いて、ホッと胸をなでおろしていたところに、さなちゃんが我が家にやってきた。

玄関を開けてさなちゃんを迎え入れる。さなちゃんとともに入ってきたムッとするような熱気が、今年の異常気象を伝えてくる。

今日も日中の最高気温36℃だって、テレビで言っていた。軽く人間の体温と同じだ。地域によっては40℃を超えるところもあるから、地球がインフルエンザにでも罹ったみたい。


「暑いよぉ!」


倒れこむように入ってきたさなちゃんの体を抱きとめる。しっとりと汗を帯びたさなちゃんの体は熱があるみたいに熱い。


「大丈夫?部屋にクーラー付けてるから、早く行こう」

「うぅ、文明の利器。ありがたく涼ませていただきます」


さなちゃんを2階に促して、私はキッチンに行ってジュースをトレイに入れてから部屋へ上がる。

今日うちの家族はお盆の準備に向けて、お父さんの実家に行っているから家には誰もいないんだ。

お父さんの実家には、お父さんの兄夫婦とその子供とおばあちゃんの5人暮らし。おじいちゃんが2年前に亡くなって、今年の夏は3回忌の法要があるらしい。

車で1時間位のところにあるんだけど、街中のここよりは田舎ってこともあって、1-2℃気温も低めだそうだ。

近くに川もあって、小さい頃は夏にはその川で従妹たちとよく遊んだっけ。

その川には梅雨前にホタルがたくさんいて、お父さんはそのホタルを見ながらお母さんにプロポーズしたって聞いた。

その時のホタルがとってもきれいで、その儚さの中にある強い生命力を感じたって両親が話していて……。実はそれが私の名前の由来。

女の子だって分かった時に、ホタルみたいに優しい光と強い気持ちを持つ子に育ってほしいって、そう考えて名前をつけたんだって。

親の願い通りには、なかなかいかないものなのです


「お待たせ」

「涼しいねぇ。うちも部屋ごとにエアコン付けて欲しいよ」

「この夏は特に暑いから、エアコンない所じゃ、息もできないよね」

「そうは言っても、ほたるは毎日暑い中花壇の水やりに行ってるんでしょ?」


そうなのだ。園芸部に入って、学校中の花壇の手入れをして花を植えてきたわけだけど、長期休みの水やりはどうしても一日も欠かすことができない。

うちの園芸部は部員数も少ないから、割り振りしたとしても、3日に1回は当番が回ってくる。

まぁ、朝か夕方のどちらか1時間っていう、短い時間の拘束で済んでるからいいんだけど。