『……ほたる、大丈夫?』


あの後、お父さんが病院迄迎えに来てくれて、榊ちゃんを自宅に送った後、私は家に帰った。

丁度家に着いたところで、さなちゃんから連絡が入った。
第一声が私を案じる言葉で、なんだかすごく泣きそうになった。


「うん。私は大丈夫。榊ちゃんが色々してくれて……私はただ病院にいただけだから……」

『榊ちゃんは東条が倒れた時に、傍にいたんだってね。あの子ならしっかりしてるから、ほたるのことも任せちゃったけど。ごめんね、不安な時に傍にいられなくて』


電話の向こうでさなちゃんが申し訳なさそうに言うから、私はそんなことないって……、こうして心配して電話をくれるさなちゃんに感謝してると伝えた。

何もできなかったのは私。情けなかったのは他の誰でもない私なんだ。

東条くんが倒れた時、傍にいたのが私だったら、榊ちゃんのように冷静に動けていたか自信ない。


『頭痛の原因が、脳に血が溜まっていた?』

「そう。血を抜く手術をしたら元に戻れるだろうって話だけど」

『硬膜下血腫って言ったっけ。やっぱり、この前東条が話していた後頭部のたんこぶって頭部打撲が原因なんじゃないの?』

「え?」

『ほら、夏休みに入る1週間位前に東条が話していたじゃん。後頭部にたんこぶができてたって。硬膜下血腫って、頭部打撲が原因で、日数を置いて脳に血が溜まってきて、脳を圧迫して頭痛とか眩暈とか神経症状を起こしたりするってうちの母親から聞いたことがあるもん』

「手術をしたら、大丈夫……なんだよね?」

『うちのおじさんも頭部打撲で慢性硬膜下血腫になったんだけど、手術して今じゃすっかり元通りだよ。だから東条も大丈夫だって。うちのおじさんは手術終わって1週間もすれば退院してたし。今度お見舞いに一緒に行こう』

「うん。そうだね」


さなちゃんの話にホッとした。身内で実際に同じ病気の人がいたなら、彼女の言う通り、東条くんが元気になる可能性は大きい。


『ほたるも、今日は浴衣の着付けとか、東条の事とかで緊張しっぱなしだったでしょ?しっかり休んで。明日東条くんのお姉さんにいつお見舞いに行けるか電話して聞いてみよう、ね?』

「そうする。さなちゃん、電話くれてありがとう。すごく嬉しかった」

『改まって何言ってんの。友達心配するの普通でしょ、当たり前のことにお礼なんて言われたら照れ臭いし』

「へへ、そう、かな」


病院にいた時には、榊ちゃんがいてくれて心強かったけど、やっぱりいつも傍にいてくれるさなちゃんの声を聞いて、やっとホッとできた気がする。

友達の存在がこんなに大きくてありがたいものだって、改めて分かった一日だった。