「榊って、東雲の気持ち知ってんの?」

「……今屯ってるメンバーで気づいてないの、本人達と、自分の恋愛に必死で鈍感になってる東条くらいだからね」

「はぁ?」


遠慮なく棘をぶち込んでくる。そうだ、榊ってこういうやつだった。


「東雲とさなちゃんは、多分あれでいいんだと思う。東雲が最後にはちゃんと言うでしょ?問題なのは東条の方だと思うけど」

「俺?」


スレンダーで女子にしては少し背の高い榊は、浴衣に下駄という成り立ちで俺より目線が高い位置にある。

切れ長の目が、呆れたように細められ、俺を見下ろす。


「私ね、山見と同じクラスなんだ」

「……山見?」


隣のクラスの女子で、あの日、いきなり告白してきた女子だ。

ろくに話したこともなかったから、驚いたけど、なぜかあの日以来馴れ馴れしく話しかけてくるようになった。


「山見が変なこと言ってたから、ずっと東条に話しが聞きたいって思ってたんだ」

「変なこと?」


いつの間にか浜野と結城から離れてしまっていた。それが気にならないわけではなかったが、今は榊の話が微妙に気になっていた。


「東条くんって、ほたるの事が好きなはずなのに、山見と付き合ってるってホント?」

「は?俺が結城を……て、誰が山見と付き合ってるって?」

「東条くんが、山見と」


同じ言葉を言うのが面倒だったのか、嫌そうな顔で榊が話す。


「山見がなんか嬉しそうに話してたのよね。東条くんがほたるを振って、私を選んだんだって。それって、完全に山見の勘違いでしょ?」

「勘違い。絶対それはない」

「だよね。……ていうか、東雲にはっぱかける前に、自分がほたるとのことをちゃんとしなさいよね」


コイツもだ。
みんながみんな、俺の気持ちを誤解している。
俺は、別に結城の事を好きってわけではないし、告白なんてする気もない。


『……の事を好きにならなかったら!告白なんかしなかったら!」』


まただ。あの不協和音が頭の中に響く。
急に後頭部がズキズキと痛み出し、吐気がする。視界がグラグラ揺れている。


「東条くん?え、ちょっとどうしたの?」

「頭、痛ぇ……」


急に膝をついた俺の傍で榊の慌てるように俺を呼ぶ声が聞こえていた。

ひどい頭痛と吐き気に襲われながら、それでも普段冷静な榊が慌てている姿を想像するとなんだかおかしくなった。

マジ、俺どうしちまったんだろう?