そういえば、今まで東雲自身の事を聞いたことがなかった。
バレー部のエースで、女子からの人気も高い東雲のことだから、女子との付き合いもそつなくこなしてるんだと勝手に思っていた。
自分の恋愛に余裕があるから、人の恋愛に平気で口を出せるんだと思っていた。
そうじゃなかったとしたら?
「東雲って、彼女いたっけ?」
「はぁ?いたらこうしてみんなで集まってねーだろ」
突然何を言い出すのかといった表情で東雲は溜息をこぼす。
「お前のことだから、好きなコがいたら夏祭りも誘ってるんじゃないかって思ってさ」
「そんなに簡単に誘えたら苦労ねーわ」
「お前に告られて断る女子がいんのか?見てみてーな」
俺の言葉に隣を歩く東雲が、自らの人差し指をたてて前を指さした。
「見れば?」
「は?」
「見たいんだろ?俺の事をすげなく振る冷たい女子を」
「え……?嘘、だろ?」
前を歩くのは浴衣姿の女子が5人。あの中に東雲が好きな奴がいるってことか?
「まさか、結城……じゃない、よな?」
「まぁ、結城なら俺の事、冷たくあしらったりしねーだろうな。いっそ結城に乗り換えよっかな」
「おっまえなぁ!」
こういう話をする時、いつも茶化して真面目に話せないから東雲と恋愛話なんかしたくないんだ。
「冗談だって。お前が好きなコに手を出すわけねーだろ」
また、勝手なことをほざいてる。もう否定するのもめんどくさくなってきた。
大きく溜息をつくと、東雲は乾いた笑いをこぼして「ワルイ、」と呟いた。
「田村さな」
「は?」
再び前に突き出した指の先には、結城の隣をあるく田村さなの姿があった。
「お前が好きなのって、田村なの?」
「だから、そう言ってる」
「お前らいつも喧嘩ばっかしてんじゃん」
「分かってるよ。自分でも小学生レベルのアピールしかできてないって事くらい」
ブスッ、と唇を突き出しふくれっ面になった東雲は、俺らとなんの変りもないただの高校生のガキに見えた。
高校になって背が伸びて、バレー部の次期エースだって持て囃されて、女子の扱いだって上手だと思っていた東雲が、実は好きなコには不器用な男だったなんて。
「ウケる」
吹き出すように言った言葉に返すように、俺のケツに蹴りを入れてくる東雲に、同じようにやり返した。
「知ってっか?田村のやつ大学は東京の方を受けるらしい」
「え、そうなのか?」
「遠恋とか、俺は全然平気なんだけど。女ってすぐ不安になんじゃん?東京のカッコイイ男に言い寄られて、田舎にいる彼氏のことなんてアッサリ捨てられそうだし」
「弱気とか、らしくねーな」
「だよな」
ヘラッ、と笑う顔も普段より弱弱しく見える。
「告ろーかな、今日」
「告れば?」
「面白がってんだろ、お前」
「いや……実際面白ーし」
返事の代わりに回してきた腕に首を絞められてしまった。