「もう具合はいいのかよ、むっつりスケベくん」


みんなの支度が終わって、待ち合わせ場所に向かう道すがら、東雲が揶揄うような口調ですり寄ってきた。


「は?」

「なんだよ。やっぱりお前は結城の事が好きなんじゃん」

「だから、なんでそうなるんだよ」

「何言ってんのかね、部屋で二人きりで手なんて握り合っちゃって。俺らがいなかったら結城の貞操の危機だったかと思うと……あー、コワ」

「お、おま!勝手に覗いてんじゃねーよ」


まさか、さっきの結城とのやり取りを、よりにもよってコイツに見られていたかと思うと屈辱だ。


「仕方ねーだろ。結城の手ってファンタジーの世界なら『癒しの手』の持ち主になれる位治癒力高いんだわ。なんか、痛みがス~ッと遠のいていくんだ」

「あほう、結城を2次元の癒し系キャラとだぶらせてんじゃねーよ!オタクか」


冗談じゃねーんだけど。マジで痛みっていうか、不安な気持ちとかそういうのが薄れていく気がしたんだ。

こんな事本人に言ったら、東雲以上に引かれそうだけど。


「でも、まいっか。お前がちゃんと結城の事が好きって証明できてホッとした」

「だから、なんでそういうことになるんだよ」

「まぁ、照れんなって。お前がしっかりしてればいい話なんだからさ」


奥歯にものが挟まったような、そんな東雲の言葉が気になった。


「東雲、なんか隠し事してねーか?」


気になったら聞かずにはいられない。隠し事とか、俺嫌いだし。

東雲もそんな俺の性格を知っているから、少し渋っていたが結局は話してくれた。


「実は、大海(ひろみ)が結城に惚れてるって知ってたか?」

「浜野が?」


浜野大海。1年の時に同じクラスになって、よくつるんでいるうちの一人だ。
確か今日の夏祭りにも来る予定になっている。

浜野が結城の事を好きだなんて全然知らなかった。


「朔弥が結城に惚れてるのは周知の事実だからさ、仲間内で女取り合うなんてカッコ悪いからやめとけって、アイツには話してたんだ。でも、最近お前ら距離あるみたいだし、浜野も気にしてさ。もし、俺にもチャンスがあるなら告白したいんだって昨日相談されたんだ」

「……なんて言ったんだよ」

「最近のお前、結城のこと聞くと不機嫌になるじゃん。でも、やっぱり惚れてるって分かったから、アイツにはそれとなく話しとこうと思ってる」

「なにを?」

「告白してもうまくいく可能性の方が低いって教えてやらないと不憫じゃないか」

「そんなこと……。アイツが本気で結城の事を好きなら、決めるのは俺たちなくて結城だ」

「きれいごとだな。俺なら絶対ヤダね。卑怯な手を使ってでも、欲しいものはt手に入れたいけどな」


普段になく真剣な東雲の顔に、正直驚いて言葉をなくした。