「倫には関係ないし」


そうだ倫には関係ない。

というか、倫にだけは知られたくない。お喋りの倫に知られたら、お母さんどころかお父さんにまで知られちゃう。

高校生が彼氏とか、お父さんはきっとうるさいに違いないもん。

……て、彼氏とか、まだ違うし!

告白はされたけど、私は返事もしていないし、付き合うなんて話もしていないのに、なんて気の早いこと考えているんだろう。

頭をブンブン振って、競り上がってくる熱を飛ばす。

顔、赤くなってるのが分かる。

そんな顔を見られたくなくて、思わず声を上げた。


「倫、テレビのチャンネル変えてよ。朝の占い見たいんだから」

「あー、私も見たい」

「父さんのも見といて」

「あー、もう、自分で見ろよ」


皆の視線をテレビに誘導させて、ホッと息を吐く。

いつもは8時に出ても十分間に合うのに、今日は少しでも早く学校に行きたかった。

早くに目が覚めたから、準備だって早くできる。

いつも以上に時間をかけて、鏡と向き合う。

普段はすっぴんの肌に日焼け止めとパウダーをはたく。

二重は親譲りで、目もどちらかと言えば黒目がち。

それをさらにパッチリに見せるためにビューラーで睫毛を上げた。

うっすらと引いたリップはチェリーブロッサムの色付き。

肩より少し長めのボブは、アイロンで丁寧に伸ばした。

制服の皺がないことを確認して、リボンタイプのネクタイをまっすぐに留めた。

少しでも、東条君によく見られたい。

だって、告白の返事をするのだから。

私も好きですって、ずっと好きでしたって、付き合ってくださいって、

彼にそう伝えるのだから。

通学用のバックを肩にかけて、ローファーに足を滑り込ませたら、玄関の扉を開け放って外へ飛び出した。


「いってきます!」


その言葉が皆に届いたのかどうか定かではないけれど、そんなことどうでもいい位に心は逸る。