「東条くんのお姉さんの浴衣の着付け?」
東条くんからの貴重なお願いを、改めて聞いてみると、そういうことだった。
「そう。俺の姉貴……、うち、兄と弟と姉が1人ずついるんだけど、その姉が、今度彼氏と夏祭りに行くらしくて」
「お姉さん、浴衣を着ていくつもりなんだ?」
「去年までは、浴衣とか全然興味なかったくせに、彼氏ができた途端新しい浴衣買いに行ってさ。でも困ったことに姉貴はもちろん、うちの母親も浴衣の着付けできねーって言うんだよね」
「そう、なんだ」
「ネットの動画とか見てやろうとはしてるんだけど、どうも根本的に不器用らしい。遺伝かなぁ」
「浴衣を着るのはそんなに難しくないと思うんだけど、帯とか、ちょっと手間かもしれない」
「あぁ、そう言ってた。最初から作ってる帯を買えばいいのにそうしなかったらしくてさ」
マジ、困ってるんだよね。
そういって項垂れる東条くんを見たら、助けたいって思う。
でも、東条くんは私でいいのかな?嫌いな人間が大事なお姉さんの浴衣の着付けを手伝うなんて、嫌じゃないのかなって不安になった。
「私、でいいのかな?」
恐る恐る尋ねると、東条くんは心底不思議そうな顔をしてる。
「俺が頼んでる方なのに、結城が恐縮しなくても。ていうか、結城の方こそ迷惑じゃない?」
「全然、迷惑だなんて……。私で役に立つなら」
「じゃあ、決まり。で、私達も夏祭りで浴衣を着るんだよね。だから、東条くんち場所借りれる?」
さなちゃんの突然の提案に、東条くんも私も驚いて言葉を失った。
「今年も行くの?いつものメンバーで」
「そうだよ。東雲くんから聞いてない?」
さなちゃんが不思議そうな顔で東条くんを見た。
東雲くんは確かいつものメンバーで全員参加だって言っていた気がするのに。
「いや、メール入ってたのかも。いつも見忘れて東雲に怒られるんだよな」
「ふうん。じゃあ、当日の夕方東条くんちに行っていい?」
「了解。結城、当日頼むな」
「うん……」
そう答えながら、東条くんの様子がいつもと少し違うことに気付いた。
なんだか、心ここにあらずみたいな。話の途中でボーッとしてることもある。
大丈夫なのかな?
東条くんの様子も気になったけど、東条くんのお姉さんの浴衣の着付けをするのは責任重大って気がして緊張する。
お母さんにもう一度浴衣の着付けを習っておかないといけないって思った。