その日の昼休み、ずっと気になっていた花壇の事を聞きに園芸部の顧問に会いに職員室に来ていた。


「結城さん、向日葵のことは残念だったわね」

「先生も、どうして花壇が荒らされたのか分からないって話でしたよね」


今朝、朝一で話を聞きに来た時は、先生も職員会議の前だからって詳しくは話してくれなかった。ただ荒らされていたとだけ。


「そう。山見さんが偶然花壇に行って、荒らされていた状態の花壇を見つけたらしくて、朝話を聞いて一緒に土を均してくれたの、彼女なのよ」

「山見さんが?」


昨日の放課後にはそんな話はしていなかった。話してくれたら、お礼言ったのにな。


「それにしても、ひどいことするわよね。人がせっかく育てた花をあんなに無残な状態にするなんて、よほど気に入らないことでもあって暴れたのかしらね」

「花にあたらなくてもいいのに……」


物言わぬ存在に自らの怒りをぶつけるなんて、どんな精神状態だったらそんなことができるのか私には想像もできない。

それにあの場所は、勘違いだったとしても私にとっては特別な場所でもあった。

白昼夢かもしれないけど、あの時の東条くんのことを今でもはっきり思い出すと、胸が痛い。

真っ赤に染まった顔が夕日のせいだったのかもしれない。
掠れていた声は緊張していたわけではなかったのかもしれない。

でも。

『好きだ』と言ってくれた……と思う。

私の名前を言って、好きだって言ってくれたと思っていたけれど、やっぱり違ったのかな。


「まぁ、誰がやったか分からないけど、また新しく種を植えましょ。今度はどんな花がいいかしらね」

「そうですね。今日の放課後は部活あるんでしたよね」

「そうね、夏休みの水まきの当番も決めないと」

「じゃあ、また放課後お願いします」


職員室を出て教室に戻れば、さなちゃんが東条くんと話をしているのが見えた。

私に気付いて名前を呼ばれる。

でも、東条くんが傍にいるのに何となく行きづらい。

それでも呼ばれて無視なんてできるはずもなく、ゆっくり近づくと、東条くんの方から話しかけてきてくれたから驚いてしまった。


「結城、浴衣の着付けできるんだって?」

「え?あ、うん」

「頼みがあるんだけど、いい?」


まさか東条くんから頼み事をされるとは思っていなくて、すぐには返答できずに彼をマジマジと見てしまって、東条くんに不思議そうな顔をされてしまった。