「ほたる、大丈夫?」
「うん、大丈夫。ちょっとびっくりしたけど……」
東雲くんがボールを弾いてくれたんだとさなちゃんから聞かされて、私は彼にお礼を言った。
「女子のサーブもなかなか強力だな」
ヘラッと笑い、転がっていったボールを拾いに行ってから、私達のところに近づいてくる。
「強力っていうか、すっごいノーコン。どう打ったらここまで飛ぶんだっての」
「山見って、意外と肩強いのかもな」
「山見さん?」
東雲くんの言葉に彼の視線の先を見れば、こっちを見て少し頭を下げている山見さんが見えた。
彼女は私が座っている側のコート側からサーブを打ったみたいだけど、さなちゃんが言うように、私がいるこの場所にボールがくるなんてコントロールはいいとは言えないと思った。
でも、バレーなんて、ボールがどこに飛んでくるか分からないから仕方のないことなんだと思う。
「偶然東雲くんがいて助かったよ。ありがとう」
「トイレに行ってきた帰りだから。男バレのエースを舐めんなよ~」
「自画自賛って、カッコ悪い」
「たーむーらー、お前ってつくづく辛口だよな」
さなちゃんと東雲くんのやりとりは、1年の時から変わりがない。
仲がいいのか悪いのか分からないけれど、東雲くんと話しているさなちゃんはいつも楽しそうだ。
「あー、次いでに田村から回ってきたメールだけど」
「あぁ、夏祭りのね」
「いつものメンバー?」
「そう。今のところ、女子は5人とも行けるって言ってるよ。男子の方は?」
「こっちもいつも通り、5人全員参加。あ、森下が女子は浴衣必須なって宣ってたぞ」
「えー、浴衣って面倒だし、暑いし、下駄で歩きづらいし」
グチグチとこぼすさなちゃんに、東雲くんが少し考え事をするような素振りのあと、ポツリとこぼした。
「でも、去年の田村の浴衣……そうだ、紺地に金魚のヤツ可愛かったじゃん」
「は?」
不意打ちの誉め言葉に、明らかにさなちゃんは動揺を見せた。
「ばっかじゃないの」なんて言いながら、なんだか顔が赤い。
もしかして、さなちゃんって東雲くんのこと……。
「結城は、百合の花の柄だっけ?朔弥のやつが、「可愛い」って見惚れてたっけな」
「えっ?」
いきなり東条くんの名前が出てきて私まで動揺してしまった。
駄目じゃん。東条くんは別に私のことじゃなくて、浴衣の事を褒めてくれただけなのに。
「ほたる……」
「ん?俺、なんか変なこと言った?」
東条くんの名前がでたことで、さなちゃんに心配かけて、東雲くんにも変な空気にさせちゃった。
「私、今年も浴衣着ようかな。去年着付けの仕方お母さんにならって、1人着れるようになったし」
「そっか。じゃあ、男子軍楽しみにしてまっす。おっと、体育の小林が睨んでっから俺行くわ」
東雲くんが走っていく背中を見送ったところで私達の番がきたみたいで、2人コートの中に入った。