その日の体育は男女ともに体育館でバレーボールだった。
バレー部の人達が率先してネットを張ったり、ボールの準備をしてくれる。
体育館の前側を男子が使い、女子は後方で2クラス合同の授業となった。
「ほたる、柔軟ペア組もう」
「うん」
さなちゃんと2人で組んで柔軟を始める。男子は早々にコート内でサーブ練習を始めていた。
バレー部の東条くんが、他の男子にサーブのお手本を見せている様子が目に入る。
昨日ふらついて顔色が悪かったのが嘘みたいに元気で、楽しそう。
「ほたる、東条くんのこと、見てるの?」
私の視線の先に気付いたさなちゃんに言われてハッとした。
見るつもりはなかったのに、自然と目で追ってしまっていたんだ。
「たまたま、ね。でも、昨日は具合悪そうだったけど、今日は元気だよね」
「あー、そうだね。まぁたふざけて……。男子ってガキだよねぇ」
さなちゃんの呆れた声音に苦笑してしまう。でも、東条くんの笑顔が見れるのは正直にいって嬉しい。
そのうち男女ともに試合が始まる。
コートの中に入るのは6人ずつの12人だから、審判役を除いて他の生徒達はコートの外で見学をしている。
また東条くんを見ていれば、さなちゃんに心配かけるし、東条くんにも気を悪くさせてしまう。
だから、なるべく見ないようにしようと思っているのに、気づけば彼の姿が視界にある。
勝手に目が探し出してしまうのだとすれば、私にはどうしようもできない。
無意識の行動はどうしようもないのだ。
私は未熟だ。
体育館の壁際に座り、抱えた膝に頭を埋めた。
こうしていれば、見えないし。
「ほたるっ!」
不意に私を呼ぶさなちゃんの声に気付いて顔を上げた。
目の前に白い物がすごい勢いで飛んでくるのが分かった。
分かったのに、顔を背けることしかできなかった。
結果、その白い物が私に当たるのは避けようがなかった。
……はずだった。
バシッ!と大きな音がして、次いで、ボールが跳ねるように床を転がっていく音がする。
でも、痛くもなんともなかった。
「結城、大丈夫?」
気遣うような声が降ってきて、ゆっくり顔を上げるとそこに立っていたのは背の高い男子。
「東雲!」
さなちゃんがその人の名前を呼ぶ。
そうだ、東条くんと同じ男バレで、1年生の時に同じクラスだった男子だ。