「おはよう、ほたる!」

「さなちゃん、おはよう」


翌日、下駄箱でさなちゃんと会って、一緒に教室に向かった。
廊下を歩きながら、さなちゃんが私の顔を覗き込んでくる。


「腫れすっかり引いたね」

「あー、うん」

「お母さん達に心配されなかった?」


さすがにあの状態で帰って、家族の誰にも気づかれないというのには無理があった。

最初に気付いたのは、倫で。

倫が大声で私の顔の様子を大げさに言うもんだから、お母さんまで私の両頬を掴んでまじまじと見つめてくる始末。

泣いて目が腫れたのは一目瞭然。

でも、2人は目が腫れていた理由を聞くことはしなかった。

ただひたすら2人から冷たいタオルと熱いタオルを交互に受け取る羽目になったのは、本当に大変だった。

さなちゃんに話して聞かせると、「想像すると笑える」と肩を震わせている。


「おかげで目の腫れもスッキリしたんだけどね」

「よかったね」

「うん。本当に有難いよ」

「ま、可愛い顔に戻ったところで、昨日話したじゃない?夏休みの計画たてるってやつ」

「そうだね。なにしよっか」

「まずは、月末にある花火は見に行くでしょ?」


地元の夏祭りは、毎年の恒例で。去年は1年クラスメイト達とみんなで行ったんだ。

その時には、東条くんと一緒にたこやき食べたっけ。
東条くんてば、熱々のたこ焼きを一息に口に入れちゃって、熱さに悶えてたんだよね。あの時はみんなで大笑いして……。

思い出して、そして急に胸が苦しくなった。
あの頃から東条くんに惹かれていたから、一緒に過ごせる時間が楽しくて幸せだった。

だから、東条くんも同じ気持ちでいてくれるのかななんて勘違いしてしまった。

東条くんはただみんなと楽しく過ごすのが好きな人だった。
特別とか、そんなのなくて、皆の事が同じように好きだったんだ。

私のことも、そのうちの一人ってだけだったのに、欲張りになって、勘違いしちゃった。

気持ち悪がられても仕方ないよね。


「……る、ほたるったら!」

「え?」

「ボケっとしすぎ。ほら、授業始まるよ。一時間目体育でしょ。更衣室移動するよ」


さなちゃんが体操服の袋を掴んで、私の頭を軽く小突く。
体操服しか入っていない袋は頭の上でポワンと跳ねただけだった。


「ごめん、行こうか」


自分も体操服の袋をもって立ち上がった。

ふと視界に東条くんの姿が入った。彼もクラスメイトと一緒に体操服をもって移動していく。

今日は昨日より顔色もいいみたい。ふらついてもいないみたいだし。

よかった。