「大げさ」
東条くんが顔色が悪いままだけど、息を吐くように笑ったその笑顔に少しだけホッとした。
昼休みの時は、私のことを心底嫌っているって感じだったから、こんな風に笑顔を見ると安心する。
でも、調子に乗っちゃ駄目だと自分を戒めた。また勘違いして彼に嫌な思いをさせたくない。
「東条くんっ、」
それまで何も言わずにいた山見さんが駆け寄ってきて、隣にいた私の肩を押しのけて東条くんの両手を掴んで引き寄せた。
「山見?」
「話、あるって言ったでしょ?」
「あぁ、そうだったよな」
「早く行こう」
強引に彼の手を引いて私達の間を抜けて校門に向かって歩いていく。
手を掴まれたままの東条くんは足元をふらつかせたまま歩いている。
「大丈夫なのかな、東条くん辛そうだったけど」
「頭痛の原因が何なのか分からないけど、病院に行くようには言ったし、あとは自分の事だよ」
なんだか不機嫌なさなちゃんの様子がちょっと気になったけれど、私の頭の中は前を行く東条くんの体調が何より心配だった。
「さ、私達も帰ろう」
「そうだね。寄り道させてごめんね」
「もぅ、ほたるは気を遣いすぎ」
仕方ないなぁって笑うさなちゃんの腕をとって、今しがた東条くん達が向かった校門に向けて歩き出した。
帰り道、さなちゃんはあえて東条くんの話題には触れなかった。
ふたりして山見さんと東条くんのことが気になっていたのは明らかなのに、さなちゃんは私に気遣ってくれているのが分かったから、私もそれを有り難く思って他愛のない話をしていた。
でも、頭の中は東条くんの事ばかり考えていた。
山見さんが東条くんに告白したこと。彼らが一緒に帰る約束をしていたこと。
東条くんが山見さんに私のことを迷惑だって話していたこと。
思い出すと辛くなるのに、どうしても考えずにはいられなかった。
2人が本当に付き合うことになったのなら、私はふたりのことを祝福しなくちゃいけないのに。
できるのかな、私に。
「ほたる、もうすぐ夏休みだね。いっぱい遊びに行こうよね?いつものメンバー誘ってもいいし、2人でもね」
「うん。来年は受験生だもんね。塾と部活がない日は遊ぼうね」
「じゃあ、計画立てよう。明日学校でね」
分かれ道でさなちゃんと別れて家に向かって歩き出す。
もう少しで夏休み。
そうなれば、東条くんと会う機会も減るし、東条くんにも嫌な思いもさせずにすむもんね。
早く夏休みになればいいな……。