背後から近づいてくる東条くんの気配がする。
顔を上げられずに、私は視界に入ってきた彼の足元を見ていた。
「山見、お前が来いって……っ、」
山見さんに向かって話している東条くんの声が途切れて、同時、視界にあった彼の足元がグラリと揺れたのが見えて、咄嗟に彼に向かって手を伸ばしていた。
東条くんが、倒れるかと思ったのだ。
顔を上げて、彼が片手で頭を抱えふらついたのを、伸ばした手で彼のもう一方の腕を掴んだ。
「……結城?」
東条くんが驚いた表情で私を見ている。
ひどい顔の私を。
それを思い出し、顔を逸らした。でも、手を離すことはできなかった。
なんだか彼の顔色が悪い気がしたし、足元がふらついて見えたのは気のせいじゃないみたいだ。
「東条くん?なんか顔色悪いよ。どうかしたの?」
さなちゃんが私の気持ちを代弁してくれたみたいに言って近づいてきた。
「あー、田村か。なんか、今朝から頭痛くてさ」
「だ、大丈夫なの?」
思わず顔を上げて声を上げた。
やっぱり顔色が悪い。
今朝から不機嫌に見えたのは、体調が悪かったせいなんだ。
そんな時に私が変なことを言ったから、余計気分悪かったよね。
「大丈夫だよ。それより、手痛いんだけど」
私が掴んでいる腕を見下ろして、彼は苦笑している。
慌てて掴んでいた手を離し、彼から一歩離れた。
「あ、ごめん。なんだかふらついているみたいだったから……」
「そう?自覚なかったわ」
「頭痛いって、東条くんって頭痛もちだったっけ?」
さなちゃんの言葉に東条くんは「いや、健康体そのものだし」と笑う。
「なんか、頭でも打ったのかな?今朝見たら後頭部にたんこぶできてるんだよ」
「たんこぶできてるのに、その経緯が分からないって危なくない?」
「俺寝相悪いからさ、ベッドの柵にでもぶつけたんだろ」
「だ、大丈夫なの?」
昼間の東条くんの冷たい視線を思い出して、まっすぐに彼を見るのが怖かったけれど、それでも彼の事は心配で、恐る恐る尋ねる。
「あぁ、平気」
「そう、よかった」
「頭痛が続くなら、早めに病院に行った方がいいよ。うちの母親看護師なんだけど、頭打ってたりしたら、直後だけじゃなくて、あとから血が溜まってくることもあるらしいし」
さなちゃんの言葉に私も不安になった。