「あ、さなちゃん。帰る前に向日葵の様子見てきていい?」
「あぁ、例の……でも、大丈夫なの?そこって」
さなちゃんが心配してくれる気持ちが嬉しかった。東条くんから告白されたと思っていたその場所に行けば、私はまた苦しくなるかもしれない。
でも、ずっと世話をしていた向日葵を、今日は一度も見ていない。
どうしてか、ひどく気にかかって仕方なかった。
心配したさなちゃんが花壇に一緒に行ってくれることになった。
「?」
校舎の角を曲がるとすぐに向日葵が見える位置迄きて、その花壇に見えるべき向日葵がないことに驚いて駆け寄った。
すぐ傍には、確か1年の時に同じクラスだった山見モカさんの姿がある。
「どう、して?」
昨日までは、目の前の花壇に向日葵が見事に咲き誇っていた。
それなのに、今は均された土があるだけだ。
花壇の前にしゃがみ込み、欠片も残っていない向日葵を探して土に触れる。
「ほたる?ここって向日葵咲いてなかったっけ?」
向日葵の事を知っているさなちゃんも驚いて私に聞いてくるけれど、私にも訳が分からなくて頭を左右に振るだけだ。
その振動に頭がズキンッと痛んだ。
「山見?あんたはどうしてここにいるの?」
花壇の前に立ち尽くしていた山見さんに向かってさなちゃんが声をかけている。
私も重たい瞼を懸命にあげて、彼女を見上げた。
「別に、理由なんてないけど?」
そう答えた山見さんが私を嘲るような表情で見下ろしているように感じた。
気のせいだろうか?角度のせいでそんな風に見えるのかも知れないと思い、私は彼女から視線を逸らした。
「ここにさ、向日葵が咲いてたの知ってる?」
「さぁ?園芸部でもないのにいちいち花壇に何が咲いてるかなんて知らない」
彼女の言葉は当然だと思う。花壇に花が咲いているのは当たり前でも、それが何の花かなんて興味がなければだれも気にも留めない。
でも、園芸部の人間としては、すごく寂しい気持ちになった。
「ほたる、園芸部の顧問に聞いてみたら?」
「そう、だね」
「でも、それは明日にしよう?今日は早く帰った方がいいよ」
「そう、だね」
立ち上がって、カバンを肩にかけなおした。
待っていてくれるさなちゃんと一緒に校門を目指す。
「ねぇ!」
不意に背後から呼びかける声に、私達はそろって振り返った。
声の持ち主は山見さん。
彼女はなんだかすごく楽しそうに笑っている。
今の私の気持ちとは真逆の、晴れ晴れとした表情で。
「私、今日東条くんに告白したの」
「え?」
「なに、それ」
山見さんの言葉に私とさなちゃんは驚いてそれぞれに声を上げた。