「東条くんが結城さんに告白なんてしなかったら……結城さんの事を好きにならなかったら、私はこんな酷いことしたりしなかった!」


叫ぶように声をあげ、膝から崩れ落ちるようにして泣き崩れる山見。

山見が言うことは自分勝手で、独りよがりだって分かる。

分かるけれど、今無残な姿になった向日葵を見て、それが俺のせいだって言われたら結構なショックだった。

明日この花壇を見たら、結城はきっと深く傷つく。
泣かせてしまうかもしれない。

その姿を思い浮かべて、鳩尾の奥がズクズクと鈍く痛み出してきた。


『向日葵、結構育ったんですよ』


嬉しそうに話していた結城。

毎日暑い中園芸部の活動をさぼることなく、一生懸命世話をしていた。

毎日楽しそうに……。

その笑顔を、俺のせいで……。

泣き崩れる山見を見下ろし、「園芸部の顧問にちゃんと謝れよな」とだけ言ってその場を離れた。

この花壇を元に戻すのは、きっと無理だろう。
でも、せめて山見が逃げずにちゃんと話してくれればいい。

頭の中がぐちゃぐちゃだった。
できればあの花壇を元通りにして、なかったことにできればいいと思った。

でも、もう遅い。

校門を抜けて、ただひたすら自宅への道を無意識のうちに進んだ。

頭の中では山見の声が何度も何度も繰り返される。

『東条くんが結城さんに告白なんてしなかったら……結城さんの事を好きにならなかったら……』

俺が、結城に告白しなかったら。

俺が、結城の事を好きにならなかったら。

まるで呪文のように繰り返される山見の声。


「俺が、結城を好きにならなかったら……?告白なんてしなければ……」


自分の声が鼓膜に張り付き、嫌な不協和音が耳鳴りとなって頭の中を駆け巡っている。


「危ないっ!」


そんな叫び声にゆっくり顔を上げた。

目の前が眩しく光って、体が何かにぶつかった衝撃と、直後後頭部に激しい痛みが襲った。


「いってぇ……」


気付けば、俺はアスファルトに倒れこんでいて、誰かが俺に呼び掛けているのが見えた。

なんとか体を起こして、後頭部の痛みに顔をしかめた。


「大丈夫?頭打ったんじゃない?」


誰かの声がする。

でもそれが誰で、自分はどうして後頭部がこんなに痛いのかよく分からなかった。

でも、何とか起き上がることができた。

歩くこともできる。


「大丈夫みたい、です」

「高校生だよね?病院行こう」


病院?なんで俺が病院に行かなきゃダメなんだろう?

状況が飲み込めない。


「いや、大丈夫。なんともないんで……。俺帰らないと……」

「本当に大丈夫?もし何かあったら、この連絡先に電話頂戴」


相手が名刺を俺の手に握らせてくる。
それを何となくカバンの外ポケットにしまって、相手に見送られる形で向きを変えて歩き出す。

突然カバンの中のスマホが鳴りだして、それに出ると母親からだった。


『遅いよ。荷物取りに行っただけなのに、なんでこんなに遅くなるの?』

「荷物?」


母親の話がすぐには理解できなかった。

俺の手にはカバンがちゃんと握られている。


『とにかく、早く帰ってきてよ?』


母親の言葉に頷き、スマホをカバンの中に戻して、なぜだか痛む後頭部をさすりながら家までの道を急いで帰った。