「東条……くん、どうして……」

「そのスコップ寄こせ!」


山見の手からスコップを引き取り、改めて花壇を見る。

ついさっきまで俺の身長よりも高く育っていた向日葵が、無残な姿で花壇の中に倒れている。


「ひでぇ……」


ここまで育てるのに、結城がどれほど大変だったか知っているからこそ、無性に腹が立った。


「東条くん……私、」

「最低だな、お前。何でこんなひどいことができるんだ?この花壇を世話していたやつがこれを見たらどれほど傷つくか分からないのか?お前に何があったか知らないけどな、花にあたるなんて最低だろ!」


怒りのままに怒鳴っていた。

茫然と俺を見ていた山見をギッと睨みつけると、彼女は肩をビクッと震わせてうつ向いて黙り込んでしまった。

修復不可能なその花壇を見下ろして、やりきれない思いで胸がいっぱいになる。

ぐちゃぐちゃにされた向日葵を、花壇の隅にまとめてやる。

立ち上がって泥だらけになった手を払っていると、独り言みたな山見の声が耳に届いた。


「ずっと、好きだったのに……」


俺がさっき彼女を睨みつけたのと同じように、今度は彼女が俺を睨んできた。
その目には涙を浮かべている。

泣きたいのはこっちだ。

心の中でそう呟きつつ、明日この花壇を見た時の結城の様子を考えただけで胸が痛かった。


「私、ずっと、東条くんのことが好きだったんだから!」

「は?」


さっきの呟きが俺の事だったなんて分からなかった。

山見に好かれているなんて、今まで全く気づきもしなかった。

というか、今この状況で告白されたって、なんとも感じないどころか迷惑としか思えない。


「なんで、結城さんなの?あんな、八方美人で男子に媚びうってる人のどこがいいの?」

「はぁ?何言ってんのお前。結城の事責める前に、お前がしたことの理由を言えよ。結城がこれ育てるのにどれだけ大変だったか、お前知らねーだろ!」


自分がしたことを棚に上げて、結城を責める口調にイライラする。
俺がもっと早く山見の目的に気付いて、こいつを止めていれば、向日葵は無事だったのかもしれないと考えれば、自分自身にもムカつく。


「東条くんのせいだよ!」

「は?なんで俺のせいなんだよ」


今度はこっちに責任を押し付けてきたのかと怒りは頂点に達しそうだった。
けれど山見はボロボロと泣きながら、俺に向かって叫ぶように言った。


「東条くんが、結城さんに告白なんてするから……だから、私……」


山見の言葉に、頭を鈍器で殴られたみたいな衝撃が襲った。


俺の……せい?

山見がこんなひどいことをしたのが、俺のせいだって言うのかよ。