「東条くん、そろそろ戻るね。日曜日の時間とか決まったら、教えてね」
「え、あ、うん」
もっと話していたかったのに、結城はあっさりとみんなのところに戻って行ってしまった。
まるで、グラウのお出迎えの後の、後味アッサリ感に共通するものがある。
ほんの少し残念な気持ちになりつつも、被服室へ戻った結城を見れば、作業を中断したことを周りに謝っていて、再び作業に没頭し始めた。
そっか、自分だけがさぼっているみたいに思えて、みんなの手前気が引けたんだ。
そんな結城の気持ちにも気づけず、グラウの話を振ったりして悪かったかもしれない。
反省しながら自分も教室に戻って、背景を完成させるべく集中した。
「なーなーなー、東条ってば、真面目くんかよ。ちょっと休もうぜ」
真面目に仕事をしていたとは思えない東雲の言葉を無視して、俺は黙々と作業に励んだ。
早く終わらせないと、日曜日の買い物に行けなくなったら元も子もないのだ。
この日、予定を大幅に縮小して、美術係の仕事は個人の受け持ち以外はほとんど終わった。
これで、日曜日の買い物はバッチリだ。
あの日、結城と2人で買い出しに行った日から、俺は少し強引にも思えるくらいに、結城との距離を縮めるべく頑張った。
メールだって、しつこくない程度に送った。
最初は必至で理由を探したけれど、2年になると、他愛のない言葉でのやり取りや、1年の時にクラスが一緒だった男子、女子、そして本命の結城を誘って遊びにも行けるようになっていた。
それでも、いつもほんの少し距離があって。
だから、俺はいつも一歩、二歩、距離を縮める為に必死だった気がする。
1年の時は手伝い程度に園芸部の仕事をしていた結城が正式に園芸部に入り、昼休みや放課後、学校内の花壇で結城を見る機会が増えていた。
元来世話好きなのだろう。
園芸部に結城が入るようになって、学校内の花壇が賑やかになった気がする。
自分が世話した花が無事に咲くのを見ると嬉しいと笑っていたところを見ると、世話好きに花好きの結城に、園芸部はまさに天職ならぬ、天部だったらしい。
季節ごとに咲く花を写真に納めては、たまに送ってくれることもあって。
いつも花ばっかりの写真に、結城らしいなっていつも微笑ましく思っていた。