被服室には、俺たちのクラスの女子が数名と、他にも衣装を作るクラスがあるみたいでわりと人がいて賑やかだった。

その中から目敏く結城を見つけて「結城」と呼んで手招きをする。

彼女は少し首を傾げて、自分なのか?と確認するように指を自分に向けた。

それに頷いて見せる。

周りに断って近づいてくる結城の背後から向けられる視線が幾つかあったけれど、気にせず彼女を廊下へと連れだした。


「文化祭の買い出し付き合ってくれない?」


斎藤から頼まれた時は、正直少し面倒だななんて思ったりもしたけれど、こんな風に口実として使わせてもらうから、斎藤には感謝だ。

衣装係の自分と美術係の自分じゃ、買い出しをするに至った経緯が分からなかったんだろう。首を傾げる結城に斎藤の名前は伏せて説明をすると、あっさりと了承してくれた。

結城のことだから、自分の仕事を人に頼むのは嫌がるだろうけど、誰かの為なら嫌な顔せず了承してくれると思ってた。

……本当は少し、自信なかった。

断られる可能性だってあった。

俺と2人で買い出しって言ったって、2人きりで行くんだ。

まるでデートみたいじゃないか。

なんて、結城が俺と出かけることにそんなキーワードを浮かべるはずもないだろうけど。

連絡を取る必要があるかもしれないからって理由を作って、メールアプリのアドレスを交換した。

クラスの女子の何人かのアドレスは幾つかスマホに入っていた。

でも、手に入れて一番嬉しかったアドレスは、このアドレスだけだった。

話す機会はたくさんあったし、実際に会話をすることだってあるのに、何故かいつもアドレスを交換しようって話題になると、結城は姿を消していて、一時期俺とアドレスの交換をするのは嫌なのかなって不安になっていた。

でも、今は違う。


「アイコンの猫って、東条くんちの猫?」


俺のアプリのアイコンがグラウなのを見て、結城が「賢そうな猫だね」と笑顔で言ってくれる。

可愛いって言葉はたくさん聞いてきた。

でも、グラウは実は意外とっていうと、グラウに引っかかれそうだが、賢いんだ。

俺が家に帰ると、どこにいても玄関まで迎えに出てくれて、足元にすり寄ってくる。

挨拶をすると、「もういいでしょ、」とばかりにどこかへ消えていくんだけど。

そんなツレナイ所も可愛くて好きなんだけど。


「グラウっていうんだ」

「グラウ?……あぁ、毛の色が灰色だから?」

「……!そう。ドイツ語で灰色って意味なんだよ。結城、よく知ってるな」

「ドイツ語だって言うのは知らなかったけど、何かで読んだことがあったの」


もしかして、結城も猫が好きだったりするんだろうか?

それなら、今度一緒にペットショップとか、行ってみたい。