「可愛いけど、なんか猫みたいなんだよなー」
「ね、猫?」
「そ。犬じゃねーの。近寄りすぎるとサッと逃げてく野生の猫。可愛いんだけど、見てるのが精一杯なんだよなー」
東雲の言葉に、結城は猫じゃねーし!とか思ったけど、俺だって、第一印象はグラウに似てるから可愛い……だったし。
東雲に文句は言えない。
正直に言えば、結城の良さをみんなにもっと知ってもらいたかった。
結城が自分で声を上げないなら、俺が彼女の良さを周りに伝えたいとも思った。
でも、こんな風に東雲から結城が他の男からどう見られているか聞かされたら、急に不安になった。
信じられない独占欲ってやつ?
東雲の話に何の興味も見せない風に装って、心の中では焦りと混乱でパニック状態。
だって、今は『可愛い』ってだけの観賞の対象だとしても、手を伸ばして触れようとしてくる奴や、懐かせようとしてくる奴だって出てくるかもしれないんだ。
冗談じゃねーし。
教室に戻って、それまでの仕事に戻った。
結城は衣装係だったから、今頃被服室で衣装を作っているはずで、教室には姿は見えなかった。
ちょっと、ホッとする。
こんな話をした後で、東雲に結城を見られたくなかった。
なんとなく。
「結城、お前今度の日曜とか暇じゃね?」
絵の具の筆を流しで洗っていると、同じクラスの斎藤が近づいてきた。
野球部らしく、丸刈りに近い頭を掻きながら、困ったような顔をしている。
「なんだよ、何かあんの?日曜日」
「実はさ、俺買い出し係なんだけど、頼まれてたもん幾つか買い忘れててさ。近くの店に売ってないもんだから、今週の日曜日にでも買いに行こうと思ってたんだけど、あいにく急な練習試合が入ってさ」
うちの野球部は今年新しいコーチが入ったとかで、練習試合がやたら多い。
文化祭は学校行事だから、優先するべきはこちらなのに、野球部はそうはいかないみたいだ。
結構厳しいコーチだって聞いてるし。
「いいよ。俺のアドレスに必要なものリスト送っておいて」
「悪いな、埋め合わせは今度するから」
斎藤に気にするなと伝えてから、ふと思いついたように俺はある場所を目指した。