「な、結城って、目立たないけど、結構可愛くね?」


文化祭の舞台美術の係だった俺は、大きな模造紙に背景をアクリル絵の具で描くのに夢中で、一瞬隣で同じように絵を描いていた東雲 晶(しののめ あきら)が何を言ったのか分からなかった。


「なんて、言った?」

「お前なー、人の話は聞こうよ。寂しいよ、俺ー」


俺より大きな体でしな垂れかかってきた東雲の体を肘で押し返す。

重いし、痛い!

中学の頃は俺よりも小さかったくせに、この2年の間にスキップするみたいに俺の身長を飛び越していった東雲は、小学校の頃からの腐れ縁だ。

同じバレー部で次期エースと噂される東雲は、腹が立つくらい女子にモテる。

結構適当で、軽くって、俺が女なら絶対こいつを彼氏にはしたくないんだけど。

高校生の女子にとっては、そういうのもモテる要素らしい。


「結城ほたるだよ、結城。アイツ、意外と運動部系の男子には人気なんだぜ」

「はぁ?マジかよ」


何で運動部限定なんだ?

その疑問に東雲は俺をベランダに呼んで、その下に並ぶ花壇を指さした。


「結城って時々あの辺の花壇で、園芸部の手伝いしてるの知ってるか?」


初めて聞く情報に、ほんの少し悔しい気持ちが滲む。

いつも見ていたはずなのに、俺の知らない結城を知る奴がいるのが気に入らない。


「グラウンドから丸見えだろ?あの細っこい体でジャージの腕撒くって、土いじったり、水撒いていたり、重たい肥料運んだりしてんの。」

「ふうん」


興味のない振りをして、実は結城のそんな姿を想像すると、その一生懸命な様子が簡単に想像できて胸の奥がこそばゆくなる。

知ってたら、手伝ってやったのに。

結城のことだから、重たくても、土で手が汚れても、全然平気だって顔して笑ってやってるんだろうなって、そう思ったら自然と笑ってしまう。


「思わず、手を貸したくなるんだよな、あれ見てると」

「そういうの、嫌がるだろ」

「そうなんだよ。野球部の3年が声かけててさ、手伝うっていうのを『自分のが頼まれた仕事なので』って即拒否してんの」

「それ、相手気分悪くしてなかったか?」

「いや、それがさ、そんな不器用な真面目さっていうの?そういうのが可愛いって株急上昇」


マジか。