私は茜の自殺の話を聞いて、茜の気持ちが少しだけわかった。

茜は多分、誰かに必要とされたかったんだ。

その時、茜は誰も助ける手段も知らなかったかもしれない。

でも、誰に相談したらいいかよく分からなかったんだ。

横断歩道の信号が赤信号になって、芹沢が止まった。

走りたくても、世の中のルールは守れるのは芹沢らしいと思えた。

タッタッ タッタッ

私は芹沢に追いつき、声を掛ける。

「……芹沢」

ゴゴォ パシャーン

雷がどこかに落ちた後、急に雨が降り始めた。

「…なんで、追いかけてくんだよ。一人にしてくれって言っただろ」

芹沢は信号を待ちながら、下を俯いていた。

それと共に、芹沢の髪に雨粒が濡れ始める。

「……そうだね。確かにそう言ったね。だけど、あんな状態で一人にしたら余計気になるよ」

私は下に俯く芹沢の背中を見て、言う。

「……」

芹沢は髪だけではなく、体全体に濡れ始めていた。

私も全身びしょ濡れだ。

だけど、一人もその場を離れなかった。

ただ、雨が降る音だけが私たちの沈黙を遮る。   

芹沢は私の方を後ろ向きで黙ったままであった。

一〇分ほど、沈黙は続いた。

「…まだ、行かないのか」

「…行かないよ。あんたが話す気になったらいく」

私は後ろを向いている芹沢の後ろで立ちつくしていた。

プゥ プゥ プゥ