「あのさ、なんであんたはこんなこと出来ないわけ? 何やらせても、ダメダメ。生きてる価値ないんじゃない?」
美咲は茜に罵倒を口にする。
僕は見て入れず、茜を呼ぼうと、声を出そうとした瞬間、僕の横を通り過ぎた男性教師が茜の元へ向かっていた。
「美咲さん。これ次の授業で使うから配ってほしいんだ。お願いできる?」
プリントを両手に抱えて、颯爽と現れた数学教師の天沢健先生だった。
「…はい。すぐやってきますね」
美咲は天沢先生を見て、顔を赤くしていた。
天沢先生は美咲に次に使う数学のプリントをクラスに配ってほしいとお願いしたら、美咲は何事もなかったかのように配り始めた。
その隙に、天沢先生は茜に声をかけてきた。
「水沢。お昼休み、先生のとこに来なさい。話があるから」
茜の顔を近づけて、わざとらしく声をかけてくれた。僕は呆然とその様子を見ているだけだった。茜は、はいと返事をしていた。
突っ立っていた僕をよそに、天沢先生は僕を何事もなかったように通り過ぎていた。
茜はなんであんな仕打ちを受けられるんだ。茜は何も悪いことは知っていないのに。
小学校の時は、男子よりも強くて可愛くて、みんなから愛されていた。
どうして、こんなことに。
僕は呆然と立っていたせいか、廊下で茜のクラスメイトに声をかけてきた。
「どうしたの?」
茜のクラスメイトが僕に下心丸出しで声をかけてくる。
「…ううん、なんでもないよ。大丈夫」
僕は女の子にそう言ってから、クラスに戻ろうとした。その時、前から芹沢が現れたんだ。