「いえいえ。和歌さん。バイトの件に関しては、僕が強引に誘ったけど、夏休み期間だけでもいいから、考えてみてくださいね」
「わかったよ」
私は海里くんの目を見て、返事をした。
その後、海里くんは数分黙り込んで、言葉を発した。
「…和歌さんは暁にとって、いい刺激になってくれそうだな」
独り言のように呟いたからか、私はあまり聞こえなかった。
「海里くん、今なんて言った?」
海里くんは私をじっーと見つめながら、返事をした。
「いや、なんでもないよ。和歌さん、一つ聞いていい?」
「うん、いいよ」
「…暁のこと、本当のこと知りたい?」
海里くんは、私を試しているかのように右肘を足につけて、私の内面まで見るかのように見据えてくる。
「……っ、知りたいよ。芹沢は何を考えているか分からなくて、変わった奴だけど。初めて見た時から、何か他人事じゃないような気がする」
私は思っていたことを口にした。
海里くんはその言葉にびっくりしたのか、私をいつも以上に見てくる。
「和歌さんって、兄弟はいる?」
「いないよ」
「…そうなんだ。じゃあ、歳近い人は親戚でいる?」
「いたよ。従兄弟だったけど。二年前に自殺して亡くなったけどね」
私がそう言ったら、海里くんは真っ青になっていた。
「その人、どこに住んでいたの?」
海里くんは食い気味に聞いてきた。
「東京だよ」
私は海里くんの言葉を聞き入れて、素直に答えた。
「名前は?」
それから、海里くんは眼を泳がせながら、私に聞いてくる。
「水沢茜(みずさわあかね)」