「メニューを覚えろってこと。ほんとは、教えるのなんて始めてだから、分からないけど、やることはやってよね」
ブツブツと文句を言いながら、芹沢はテキパキと私に指示をして丁寧に教えてくれた。
時間が経つごとに、お客は増えていた。
こんな二人で回らないよ。
と思った時、こちらのテーブルでお間違いないですね。では失礼しますと黒エプロンを着た海里くんがいた。彼がいるだけで、女性客は目を輝かせていた。
「海里くん。上に行ってたんじゃないの」
私はお客を接待してきて、キッチンに戻ってきた海里くんに話しかける。
「いつもこの時間になると、混むからね」
今は、あっという間に一五時を回っていた。
ここにくるのは、食事だけじゃなくて、スイーツ目当てで来ているお客が多かった。
「この店は当店で人気のスイーツ目当てに来ている人が多いんだ。去年から始めたんだけど。それが好調で。まあ、ほとんど暁のおかげなんだけどね。バイトなのに、店員並みに働いてくれて助かるよ、ほんと」
海里くんは、あーと両腕を上にあげて背筋を伸ばした。
眠たそうにしながら、きちんと仕事はしている。
「そういえば、ここって、店長さんはいるの?」
「いるよ。僕の母さんが店長だよ。でも、何もしないんだよね」
え? なんもしないのに、店長なの。
どういうところなんだ、ここは。
バイト1日目なのに、もう疲労感がハンパない。ようやく、人が少なくなってきた。
最初に私は休憩に入ることになった。
ふー、私は外にある休憩スペースに座り、店で余ったサンドイッチを食べている。
空を見上げながら、私はなぜか呆然としていた。
こうやって、働いていると何もかも忘れて、体を動かすことができるのはすごくいい。
食べかけのサンドイッチを片手に持ち、足をまっすぐにしてベンチに寄りかかった。
すると、頭の上から冷たいものがのしかかる。
「…冷たいでしょ」
海里くんは私の頭の上に冷えたお茶をポンと置いていた。
はいと私に言って、お茶を渡してくれた。
「海里くん。ありがとう」
海里くんは私の隣に座って、私に優しく言う。