私は夏休みの間だけ、バイトを始めた。

特に友達とも約束もなければ、彼氏もいない。家族とはほとんど話さない。
暇すぎるので、喫茶店のバイト。

そう、そのバイトとは、芹沢暁が働いている海喫茶店で働くことになった。
なぜ、ここで働くようになったかというと。

一週間前に遡る。

「ふぅ。暑い」

私は家から遠く離れたスーパーに来ていた。

そこのスーパーにしか売っていない当店限定のアイスを食べたく、いつも何かあると足を運んでいる。

「よし、これ」

そう言って、左手にカゴを持ち、当店限定のアイスを手に持った時だった。

「あれ? 和歌さん?」

後ろを振り返ると、海里くんがいた。

「…え? なんでここに」

「いや、和歌さんこそ。僕は、海喫茶店で足りないものを買っているところだよ」

「ここから、海喫茶店まで遠いじゃない」

「…あっちこっち、スーパー回ってたんだ。どうしても手に入れないといけなかったから」

海里くんは、手に入れたかったものをこれと言わんばかりに右手を上にあげて、私に言ってくる。

それは、苺一箱だった。これがなんで、どこのスーパーにもなかったんだ。

あってもいいはずなのに。

「苺は、今旬じゃないからね。手に入れるのは、難しいんだ。しかも、オーダーは大きい苺だったから。どこも小粒だから。ここでなかったら、諦めようと思ってたら、あったから良かったよ」

海里くんは走りながら、スーパーを回ったのか顔には汗が滲んでいた。

「…よかったね」

私はにこりと笑い、海里くんは私を見てきた。

「和歌さん。なんかありました?」

海里くんは私の目をじっと見て、私が考えていることを見透かされている気がする。

「…なんにもないよ」

私は目を細めて、平然と何もなかったかのように笑った。

「…そっか。ねぇ、和歌さん。今夏休み中だよね」

「そうだよ」

「なら、うちの喫茶店でアルバイトしない?」

海里くんはニコニコしながら、私に誘ってきた。

「私の学校、バイト禁止なんだよ。分かってるよね?」

「うん、でも暁はやってるよ」

「だからって、やっていい訳では…」

私はそう言うと、海里くんは左手にカゴを持って、密かに私に言う。

「…じゃあ、交換条件しよう。僕は和歌さんに暁のことについて教える。その代わり、和歌さんは夏休み期間中だけバイトして。これで、どうかな?」

海里くんは腕を組みながら、私を見据えてくる。

海里くんの目は、何かを挑戦するかのように真っ直ぐに真剣で見ていた。


「…だけど…」